Far East Entertaiment × Helixes「後世に残る仕事を、カルチャーの真ん中から作り出すために」
2021.03.11
Helixes Inc.のメンバーやそのマインドについて発信していく「Helixes.log」。
今回は、Crossfaithなどのアーティストマネジメントを行うFar East Entertainment代表・Rew Kubayashiさんと、Helixes代表・志村の対談をお送りします。
過去にはHelixesのクリエイティブ事業部であるmaxillaに所属していたこともあり、Rewさんと志村は旧知の仲。現在は協業して「TOKYO SESSIONS」など複数のプロジェクトをともに進めている両者に、タッグを組む意義を聞きました。
―Rewさんのキャリアのスタートを教えてください。
Rew Kubayashi(以下、Rew) もともと、アメリカやイギリスのパンク・ハードコアなどの音楽が好きだったんですが、地元には音楽の趣味が合う人もいなければ、レコード屋さんも遠くて、音楽文化としては過疎地でした。それで早々に(バンドをやるなどの)オンステージの道は諦め、裏方として音楽に関わろうと思っていたんです。ラジオ局か、音楽ライターになるしかないかなって。その後、大学の入学式に出ずに行った「PUNKSPRING」でライブを観た時、趣味が分かり合える人と会うなら現地に行くのが一番早そうだと気付き、大学を辞めてロサンゼルスに行ってみることにしました。そこから数ヶ月滞在して、日本に帰ってきたらバイトしてまたアメリカに行く、その繰り返しでしたね。
その日々の中で出会いに恵まれて、音楽の仕事につながります。最初の仕事は、海外アーティストが来日した際のツアーマネージャーでした。
―いきなりそんなお仕事からキャリアを始められる人はなかなかないですよね。
Rew 当時、日本人の10代がロスのゴリゴリのライブハウスにいること自体が珍しかったんでしょうね。アメリカで仲良くなったアーティストが、フェスとかで来日すると連絡がきて、うちに泊まりにくるような間柄になったんです。僕は彼らを泊める代わりにスタッフパスをもらって、10代なのに海外アーティストの甥っ子みたいなツラで一緒に遊んでました。その頃、友達に紹介されたあるバイトがきっかけで、音楽のフリーマガジンを運営されていた、Hi-STANDARDのマネージャーの方と出会い、そのマガジンでライブレポートやディスクレビューを書くようになります。
そのバイトっていうのがちょっと変わっていて、主な業務内容は、お客さんとのメールのやり取り。時給が高くてシフトの都合も付きやすく、会社は常に人手が欲しいってことでバンドマンの巣窟になっていて、僕が高校のときに知ったアーティストもいました。そこの先輩に紹介されたのが、Hi-STANDARDのマネージャーさんだったんです。
僕は仕事の内容的に「このバイトを続けたら心が腐る」と思って3カ月ぐらいで辞めたんですけど、得たこともあって、それはタイピングの速さと文章の読解力。全盛期には1時間に120件メールしてたんです。30秒で一人(笑)。おのずと読解力も速くなるんですが、そこで「疑問符がある部分を読めば、会話って成立する」ってことに気づきました。
―疑問符を読む…?
Rew そのサイト内では独自の通貨を購入することでコミュニケーションが取れる仕組みでした。1メールにつき5コイン、写真を1枚送るなら10コイン、みたいな形で。文字数では一通あたりの金額は変わらないから、ヘビーユーザーは文章量が半端じゃなくって、「朝は何時に起きたの?朝は何食べたの?今日は何を着ているの?」って聞きたいことを聞きまくってくる。でも、どれだけ長い文章でも、疑問符だけピックアップして返せば、相手は「質問に答えてくれた」ことになるので、満足なんです。今も仕事で相手のメールが長いときには、疑問符を見て何が聞きたいのかを紐解き、簡潔に答えようと意識しています。
―maxillaのメンバーとの出会いのきっかけは?
Rew 川崎のクラブチッタで行われた「重音楽祭」というライブイベントに出演していたCrossfaithに紹介されたのが龍之介でした。そのままの流れでmaxillaの事務所に遊びに行って、三日ほどずーっと飲みながら話して…「もう(こんなに気が合うんだし)ウチに入りなよ」って言われて、入ることにしました。
しばらくしてCrossfaithが河口湖近くのスタジオでレコーディングしてる様子を撮影することになって、僕含めた当時のmaxillaの三人で撮りに行くことがあって。そこでCrossfaithのメンバーや当時のレーベルオーナーさんが、深刻なトーンで「マネージャーが必要なんだよね」という会話をしていて、聞かれてもないのにその場で僕やりますと手を挙げました。即決でしたね。そこからマネージャーとしてのキャリアが始まりました。
―以来、maxillaを離れて8年間ほどSMAでCrossfaithのマネジメントをされると。そして2019年に独立されて Far East Entertainment を立ち上げられたわけですが、独立した理由として何が一番大きな要因だったのでしょうか。
Rew 旧体制な音楽業界に嫌気が差したことが大きいです。90年〜2000年代初頭のエコシステムのままで、誰も体制そのものを振り返らないし、疑問視する風潮もない。「ルールはルールだから」「横並びに前例がないから(やらない)」というワードが本当に日々飛び交っているんです。
当たり前ですが、アーティストによってファン層や活動の仕方は異なりますし、今はその多様性がどんどん広がってきています。そんな時だからこそ、独立して「アーティストの個性に即したマネージメントの在り方」のようなものを模索してみたかったんです。それに、ワークしないシステムが待っていることを知りながら、新人発掘するのも心が苦しかったですし……。ただ一応言っておくと、今は独立していますが、SMLとSMEにも籍があって。あるアーティストの海外展開におけるPRやDSPへの働きかけ、ツアーやフェスなどの興行周りをサポートしています。
―Helixesは現在Far East Entertainmentと協業していますが、この経緯や内容を教えてください。
志村龍之介(以下、志村) もともとRewとはよく将来の展望を話していて、案件ベースでは仕事をしてきましたが、お互いのためにより強固で、長期的な関係を構築できる可能性も感じてきて。お互いの長所を活かしながら、より長期的な展望をもって、一緒にビジネスをするためのアライアンスを組もうよ、という流れで協業することになりました。
―具体的に、どこをどのように相互補完できると考えていますか?
志村 1つはmaxilla事業部における営業力の強化です。Helixesのクライアントとなる企業やブランドの多くは、主にカルチャー領域におけるコンテンツマーケティングを求めています。その特性を考えると、Rewの持つ音楽・エンタメ業界に関するインサイダー的知識やノウハウを提供してもらうことで、競合に対する説得力が増すと考えています。
逆に、制作機能を持たないFar East Entertainmentからすれば、広告領域などの施策を行いたい、と声をかけられた場合はHelixesを使うことで、制作とブランドリレーションの機能がまかなえる。「営業力とプロダクションをくっつける」というと分かりやすいかもしれませんね。お互いの得意とするビジネススキルをかけ合わせて仕事を生み出すことで、それぞれの実績にもなるし、いずれはこの先のより大きなビジョンにつながっていくと思っています。
実際「TOKYO SESSIONS」とAmazonが提供する配信サービス「Twitch」のお仕事は、この流れの中から生まれたもので、特に「Twitch」に関しては、もともとRewの昔からの業界での繋がりがきっかけで、一緒にチームアップしてやろうとなった経緯があります。他の仕事でもそんな風に掛け合いながら、大きな動きを一緒に形にしようとしています。
Rew Far Eastの本軸はアーティストマネジメント業なので、制作は外部を頼らざるを得ません。これまでも色んな会社さんにお願いしてきましたが、Helixesのコアメンバーはもともとライブハウスやクラブの文脈にある文化に慣れ親しんできた人が多く、共通言語がたくさんある。ものづくりしていく上で1から10まで説明しなくていい相手だからやりやすいです。
志村 僕たちなら大手代理店にできないことができる、と思っています。なぜかと言うと、カルチャーの真ん中にいるから。音楽に関しては特にそうで、地に足をつけてまさに現場をずっと見てきたRewの知識と、ものづくりができる僕たちが一緒になれば最強だろう、と。大手がやってしまうと、どうしても数字だけで動いてしまいますから。
―特に今は表層的でない、強度のあるコンテンツが求められていますよね。
志村 そうですね。特に音楽の領域で言うと、消費者がアーティストから受け取るものが圧倒的に変化しました。CDやフライヤーだったのが、デジタル化が進んだことでより情報量の多いものが求められるようになった。そうなると、昔から音楽が大好きでずっと現場にいて、アーティストとしっかり関係性を築いてきた僕たちのほうが(制作する上では)他社よりも強くなるよな、とは思います。
―影響力が数値化されて施策の効率化が加速した結果、文化的背景を理解しないままにコンテンツが量産されていく、という現状もありますよね。「ファンに刺さるコンテンツ」がマーケティング視点で語られることが多すぎる、というか。
Rew これは業界に対しての愚痴になるのかもしれないですけど、みんな「ユース・カルチャー」って言葉をよく使うじゃないですか。音楽業界でターゲットとする理想的なリスナーの年齢層って、高校生から社会人1年目ぐらいが一番息が長いとされていて。その “ユース”の歳からファンになってくれたら、ロイヤリティが高くなる可能性が高いんです。でも、”カルチャー”や”ユース”などをよく口にする業界人に限って、現場に足を運んでいない。コロナがあるので今は言えることじゃないけど、コロナ以前も本当にヒドかった。本当にそのカルチャーを知りたいなら、まず現場に赴く必要があると思います。
志村 僕も結構ライブには行くほうだと思うけど、Rewは本当にどこにでも行ってるよね。「カルチャー」って言葉は簡単に使われているけど、数十年の覚悟をもって取り組んでいくべきことだと思っています。
Rew 音楽業界で言うと「10年後、20年後、30年後に残るものをつくろう」と言える裏方がいないんですよね。(早く結果が欲しくて)インスタントなものばかりを狙いに行きますから、どのジャンルも八方塞がりになっている。誰かが当たれば、皆がこぞって「次はシティポップだ!」「次世代の○○現わる!」なんて実力以上の言葉を掲げて売ろうとするけど、結果は鳴かず飛ばず。で、ヒップホップが流行り出したら今度は「ヒップホップを全力でやれ」という上からの号令が飛び交って……この人たち何やってんのかなって。でも、実際に数十年先の文化圏を作り上げるのは今の10代であったり、それより若い子達なので、先輩にはリスペクトを持ちつつ、迎合しないようにやってけばいいのかなとも思います。
―両社の取り組みの先に、どんな未来像をイメージしていますか?
志村 様々な文化やものさしがインストールされている場所を作って、若い人たちが色んな価値観触れられるようにしたいね、って話はよくしています。分かりやすい例が、Bring Me The Horizonのボーカル、オリヴァー・サイクスがプロデュースしている、ウェアハウスを改装した基地のようなバー「CHURCH: Temple of Fun」。ヴィーガンフードやドリンクがあって、タトゥーが入れられたり、時々映画のスクリーニングもあったり、アパレルも販売している場所です。
Rew Helixesは今「1プロジェクト」や「1プロダクト」に対するプロモーションやマーケティング、クリエイティブを手掛ける仕事をしていて、僕の場合は世の中にいるアーティストのうち、ほんの0.0何%のレベルの数のアーティストと関わることしかできません。その「点」だけでは終わりたくないなと思っていて。
よく音楽の話でも「○年代は○○がすごかった」みたいな話を聞きますよね。そんなふうに語られるのって、アーティスト同士の連帯もそうですし、その周囲も含めた圧倒的な熱量があったんだろうな、って思うんです。だからこそ、みんなの記憶に残る事象が起きて、後世に影響を与えるインパクトを持った時代になったなって。2021年以降にそんな時代を作るのはどうすればいいか、よく考えています。エンタメアートの歴史を紡ぐような作業、というか。
音楽が商業化されてから、まだ100年と少し。2900年になって「音楽史1000年」という本(か何かしらの媒体)が出て歴史が振り返られるとき、僕たちが起こしたムーブメントが1ページだけでもいいから刻まれていてほしいなって思います。そのくらいのことをやりたい。後世になるべくたくさんの選択肢を残せたらいいですね。
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Speaker
Rew Kubayashi
Ryunosuke Shimura -
Interview & Text
Kentaro Okumura
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Edit
Mami Sonokawa
Kohei Yagi
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