Quentin Deronzier × maxilla渡邊「国境を越えるビジュアルディレクション」
2020.05.22
Helixes Inc.のメンバーやそのマインドについて発信していく「Helixes.log」。
今回は、親しい友人でもあるフランスのビジュアルアーティスト/クリエイティブディレクター・Quentin Deronzierに協力してもらいました。
3DCGを駆使したカラフルでどこかシュールでもある彼のアートワークは、Drake、FOALS、NIKEなど世界的なアーティストやブランドから大きな支持を得ています。Helixes内のクリエイティブチームであるmaxillaも、過去に幾度かQuentinとコラボレーションしてきました。
遠く離れた地のクリエイターと、Helixesのどんな感覚が通じ合い、コラボレートするようになったのか。同じくフランス出身のディレクター・渡邊勝城と、代表の志村龍之介がQuentinと語らいます。
ビジュアルアートを志向した2人の出会い
ー自己紹介をお願いします。
Quentin Deronzier(以下、Quentin) クエンティンといいます。フランス出身のビジュアルアーティスト、アートディレクターとして、主に音楽やファッションの業界で活動しています。
最近では、Drakeのミックステープ「Dark Lane Demo Tapes」のオフィシャルリリースビデオを作りました。他にも個人的なプロジェクトをいくつか抱えていて、主に3Dのアニメーションを作っています。
渡邊勝城(以下、渡邊) maxillaのディレクター/グラフィックデザイナーの渡邊です。今年で入社して3年目です。生まれも育ちもフランスのパリで、2015年に東京に越してきました。
志村龍之介(以下、志村) maxilla代表の志村です。現在はクリエイティブディレクターとしてお仕事をしています。
ークエンティンさんとmaxillaとの出会いを教えてください。
Quentin 僕は日本にずっと興味があって、2018年から彼女と一緒に1年ほど東京に住んでいたんです。住み始めて1ヶ月ほどした頃に、共通の知人の紹介で龍之介(志村)と出会い、その流れで龍之介がマサ(渡邊)を紹介してくれました。すぐに意気投合して、maxillaのオフィスにも遊びに行って。だから、知り合って2年くらい経つのかな。
ー日本のどんな部分に興味があったのでしょうか。
Quentin 常に自分をインスパイアしてくれるものを探していますが、特に日本の文化は自分にとって刺激的だったんです。島国で閉ざされているからこそ、手つかずの文化が残っている。
ヨーロッパで生きる人間としては、日本のような場所にあるものは全てが新しく見えるし、クリエイティビティが刺激されるんです。それと、日本の映像業界にも興味があったというのもありますね。もう10年以上前から日本の文化のファンです。
ー渡邉さんはフランスで育ち、現在は日本の映像業界で働くという珍しい経歴をお持ちです。映像の仕事をするようになった経緯を教えてもらえますか?
渡邊 もともと絵を描くのが好きで、小学校の時はノートに「遊戯王」とか「ポケモン」の絵をよく描いていました。中学生になると、友達がRed Hot Chili Peppersのようなロック系の音楽を教えてくれて、そこからCDジャケットやMVに興味を持つようになって。
高校卒業後には本格的にグラフィックデザインを学ぶべく、パリにあるアートスクールを受けました。そこではグラフィックデザイン(平面デザインやロゴデザイン)と広告(アートディレクションやクリエイティブディレクション)を勉強しました。
ー最初からビジュアルアートの道へ進んでいたんですね。
渡邊 いえ、そういうわけでもないです。5歳から柔道を真剣にやっていて、高校の時には柔道の先生になりたいくらいに思っていました。
志村 えー!それは知らなかった(笑)。
渡邊 でも音楽を好きになったことが入り口となって、グラフィックやアートの領域に興味が移り、アートスクールを出て21歳の時に武蔵野美術大学に編入しました。
ー生まれた国を離れて日本へ移住するという決断ができたのは?
渡邊 違う環境で物事に触れたかった、というのが大きいです。それにフランスでも、日本から来た友達の影響で日本のバンドをよく聴いていて、ずっと興味は持っていましたから。maxillaのこともONE OK ROCKの「The Beginning」のMVで知ったんです。
音楽の趣味が合い、映像やグラフィックを制作している会社だったので、インターンとして応募して、そのまま2年間アルバイトとして働きました。それである時、誰もいないオフィスで作業していた志村さんに、入社したいと伝えたらその場で「うん、いいよ」と(笑)。
Quentin ラフでいいね(笑)。僕はずっとビジュアルアートに関わる職種に就きたいと思ってきたから、クリエイティブな業種以外の仕事をする想像はできなかった。最初の夢は映画監督だったし…あ、でも小さい頃はローラーコースターのデザイナーになりたかったな(笑)。
ー最初の共同プロジェクトは?
Quentin フランスのラッパー・ORELSAN(オレールサン)がディレクターのファッションブランド「AVNIER」のルックムービーのお仕事です。
Quentin 東京でロケ地を探して撮影することになっていたので、マサと龍之介に相談したところ、夜の東京の街に、CGIエフェクトで3Dの木や花などの自然の要素を合成で足すというアイデアに決まりました。とにかくロケーションの数が多く、一晩中撮影して結局終わったのは朝6時。超暑くて大変だったけど、とても楽しかったです。
志村 ハードに良い画を追い求める、maxillaスタイルだね(笑)。渡邊 この撮影の頃、クエンティンは日本に住み始めて4ヶ月ほど経っていて、すでに都内の有名な観光地をよく知っていた。だからこそもっとローカルで、あまり知られていない場所をロケーションにしようと。
Quentin そう。ロケハンの時に、例えば新宿(のような有名な場所)でも、よりディープでユニークな場所を探しました。その結果、高速道路から遠くに高層タワーが見える光の美しい場所で撮影することができました。
オープンマインドを持ち続ける重要さ
ーフランス(または海外)と日本の映像業界はどんな点が異なりますか?
Quentin 日本の場合はプロセスを重視するから、進め方がしっかりしていると思います。USの企業だと「元気?今度こんな映像作りたいんだけど」って、仕事でもかなりフレンドリーにメールをしてきたりする。
一方、日本ではメールでも会話でも “仕事らしい”、固い振る舞いで物事を進めていきます。これは悪いことではなくて、こういった性質があるからこそ、編集やグレーディングなど一つひとつの工程を丁寧かつ緻密に仕上げられるんだと思います。他の国よりも、よりプロフェッショナルですね。
もう一つ日本の映像業界の特徴として言えるのは、「2つの世界にはっきり分かれている」ということ。クライアントありきのクラシックなCMの世界と、MVなどのインディペンデントでアーティスティックな世界に、です。
そしてアーティスティックな方が、コマーシャルな世界に対して実験的な姿勢で挑戦している。これはフランスにもある構図ですが、日本ほどはっきりとは分かれていません。
渡邊 これは映像というより音楽業界の話かもしれませんが、日本では日本人のアーティストのMVを撮るのがほとんど。一方で、フランスではUKなど他国のミュージシャンを撮ることが多い。
Quentin 確かに。日本は他の国と物理的な距離があるからね。こっちだと違う国のアーティストを、違う国で撮ることはよくある。先日僕が撮ったイギリスのアーティストのMVも、ロケ地は東欧の中でも撮影費用が安く済むポーランドだった。フランスは場所代が高いんですよね。
志村 日本の映像業界は、日本という国の外にある考え方をもう少しインプットするべきだと思います。
言葉を学ぶことはツールを習得するようなものでしかなくて、人の考え方や何にモチベーションを得ているかを知ることの方が重要。マインドセットによって、人の行動は決まると思うんですよね。
なので、maxillaではもっとみんなに開かれた考え方を学んでほしくて、国内外、業種も問わず知見として参考になる記事があったらシェアできるSlackのチャンネルを作ったりしています。
渡邊 maxillaにいる人達って英語圏的な考え方をしている人が特に多い気がします。ずっとフランスにいたからこそ言えます。僕がいきなり日本の企業に入社して溶け込めたのって、そういうことじゃないかな。
入る前は「はい!おはようございます!」という形で朝礼があるような、規則正しい典型的な日本の会社像をイメージしていたから驚きました(笑)。
ークエンティンさんから見て、maxillaの特性はどんなところにありますか?
Quentin 2つあって、1つめは少し話したけど、国際的な感覚とパイプライン、そして行動力があるということ。多くの日本のプロダクションは、開かれた心を持っているように思えないから。
2つめは、野心と前進する気持ちを常に持っているということ。龍之介は常に新しいアイデアを話してくれる。数年前から始まった、有名タイトルとコラボレーションするファッションブランド(※「名/NA」)だったりね。
そうやって、常にトライしようとしているところが好きです。現状に満足していると、徐々に沈んでしまいますからね。
ーmaxillaから見たクエンティンさんの強みは?
渡邊 まずクリエイターとして持っている技術が高いことと、行動力があること。日本語が話せないのに、興味があるというだけでいきなり1年も日本に住むのって、すごいと思う。
それと彼はクライアントワークとは別で、自由にパーソナルなアートワークを作って、SNS(Instagram / Twitter)を活用しながら積極的に広めています。maxillaが見習うべき姿勢だなって思います。
志村 エモーショナルな表現を突き詰めようとしているところです。彼は自分のクリエイションで、見る人の心や感情にタッチしようとしていて、それが日本人の心にも刺さるんじゃないかな。
日本人は「雨が降る」という意味から、何十通りもの表現を作ることができる詩的な感覚を持っていますよね。彼とはそういう、情緒の部分で共感しあえるところがある気がします。
Quentin 僕もそう思います。日本の文化はかなりスピリチュアルで、「万物に神が宿る」って考え方は西洋や他の国にも絶対にない、とてもおもしろい捉え方。それと、龍之介とマサとは音楽や映画の趣味が近いというのも大きいでしょうね。
志村 地球の反対側くらい遠く離れた国で生まれ育ったのに、同じようなカルチャーに影響を受けているよね。
maxillaのメンバー達が日本人でありながら、より開かれた考え方を持っていて、クエンティンがフランス人でありながら、日本的な繊細な感覚を持っているってことじゃないかな。
ー最後に、クリエイティブであり続けるためには何が必要でしょうか?
渡邊 今はNetflixで映画を観たり、InstagramやPinterestでグラフィックを探したりと、スマホで何でもできる時代ですが、同時に自分のネットワークの外に出ることも大事だと思います。
例えば僕は、道を歩いていて良い風景があれば必ず写真を撮るようにしています。今はコロナの影響で動けないけど、状況が落ち着いたらいろんな場所を旅したいですね。
Quentin 旅をして、違う目線を持つ人と話すことは大切だと思う。同じ場所にずっといても発見はありません。僕は過去にアムステルダムで3年、日本で1年住んだことがあるくらい、とにかくいろんな場所に行くことが好き。こうした経験は、新しい視点を与えてくれました。
もう一つは、自分がやりたいことにたくさん時間を使うこと。
僕はなにか作りたいものがあったら、何回も何回も試行錯誤するんです。僕にしてみればこれは「脳の筋トレ」。クリエイティビティにも筋肉が必要で、鍛えることでその機能性が高まるはずだと思っています。
Quentin Deronzier ポートフォリオ
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Speaker
Quentin Deronzier
Masaki Watanabe
Ryunosuke Shimura -
Interview & Text
Kentaro Okumura
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Edit
Kohei Yagi
Mami Sonokawa
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