【対談】Nate×maxilla二子石|うごメモ、ニコ動… ネットカルチャーから始まった10年代映像作家の軌跡とその先
2023.11.16
Helixes Inc.のメンバーやそのマインドについて発信していく「Helixes.log」。
今回お届けするのは、maxilla事業部に所属するディレクターの二子石と、CG/モーションデザイナーであり、クリエイティブスタジオ「nim」を率いるNate氏による対談です。「うごくメモ帳」や「ニコニコ動画」など、同じカルチャーに大きく影響を受けた二人のこれまでの歩みや映像制作への思いなどを中心に語らいました。
アイデアが相乗効果を生むニコ動の世界に憧れた
─まずは、お二人の関係性から教えていただけますか?
二子石 もともと僕は高校生ぐらいの頃からNateくんのことを知っていました。ニコニコ動画に影響を受けた僕らの世代は、イラストを使った映像を作る動きが活発だったと思うんですけど、そのなかでもNateくんはCGとモーショングラフィックスだけでの映像も積極的に発表していて、昔からインスピレーションを受けていたんです。2016年ぐらいには、音ゲーに使う楽曲を競い合う「BOFU(THE BMS OF FIGHTERS ULTIMATE)」という大会があったんですけど、そういう大会にも出てましたよね?
Nate 今となってはちょっと恥ずかしいですけど、出てました(笑)。逆に僕が二子石さんを認識したのは、2年前ぐらいだと思います。SNSを見ていて、自分と同じぐらいの年代で手掛けている作品の領域も近いなと思って気になったんですよね。
二子石 つい最近も、知らず知らずのうちに同じアニメのオープニングを弊社が、エンディングをNateくんが担当していることがありました。『Paradox Live』というヒップホップをモチーフにした作品なんですけど、「エンディングはどんな感じだろう?」と完パケした映像を観たらNateくんが担当していて。その直前に初めてがっつり話す機会があったところだったのでびっくりしましたね。
─そもそも、お二人が映像制作に携わるようになったきっかけは?
二子石 僕は「うごメモ(うごくメモ帳)」が始まりです。自分の書いたメモを動画のように再生できるニンテンドーDSのソフトなんですけど、当時小学生だった僕は教科書の隅っこに棒人間のパラパラ漫画を描いていたので、それが気軽にできるなんて最高に楽しいじゃんと。棒人間同士のバトルシーンみたいなのをずっと描いていたのを覚えています。
Nate 実は僕も「うごメモ」から入ったんです。「うごメモ」は、ただ作って終わりじゃなくて、「うごメモシアター」という掲示板サイトに投稿できる仕組みになっていて、知らない誰かから反応をもらえるのが良かったんですよ。当時、僕は小学5年生ぐらいだったと思いますけど、リアクションをもらえるのが嬉しくて、作品を通じたコミュニケーションも含めて映像制作にどっぷりハマっていきました。
二子石 そのときって、どんな映像を作ってたんですか?
Nate 今で言うリリックビデオみたいな感じです。ボーカロイド(以下、ボカロ)の場合、二次創作大歓迎みたいなスタンスの方が多かったですし、世代的にもニコニコ全盛期に青春時代を過ごしたので、自然とそういった音楽に興味を持つようになっていました。
─当時のニコニコ動画はどんな場所でしたか?
二子石 「Minecraft」みたいな世界だった気がします。何もないところに大勢の人が集まって、少しずつカルチャーが生まれていったというか。アニメの素材を使ったMADを作るやつが出てきて「そんな作り方があるのか!」と驚いたり、ボカロの使い方がどんどん発明されていったり。ちょっとしたアイデアの断片を誰かが投稿すると、それに触発されて一気に面白いことが生まれていく。鮮やかな世界にすごく憧れました。
Nate 僕も憧れが強かったです。やっぱり、ニコニコだと曲を出すにしても動画付きで公開するのが当たり前だったので、イラストを描く人だったり、動画を編集する人だったり、みんなで集まって一つの作品を作ろうっていう流れがあって、それがすごい羨ましくて。自分も参加してみたいと思えた場所でしたね。
二子石 しかも、本当に熱意だけでみんなが一丸になる感じが面白くて。もちろん、当時もAfter Effectsを使ったリッチな映像を作っている人もいたと思うんですけど、逆にAviUtlみたいなフリーソフトでやれるところまでやってる人がいたりとか。方法が本当にいろいろあって、その多様性が楽しかった思い出があります。
自分の頭の中にしかないものをビジュアライズできるのがCG
─そうしてニコニコから影響を受けつつ、実際に映像が仕事につながっていったのは?
Nate 完全にSNSがきっかけですね。中高生ぐらいの頃から、「うごメモ」でやっていたようなことをそれこそAviUtlを使ってやり始めて、作品をSNSにひたすら投稿していたんです。そうしたら、一番最初はボカロ楽曲のMVだったと思うんですけど、それを見た映像プロデューサーの方が声をかけてくれて、少しずつお仕事になっていった感じですね。最初は音楽ライブの演出映像などが多かったです。
二子石 僕も個人としてお仕事をいただけるようになったのはNateくんと同じ流れです。ニコニコ動画にアップしていた映像自体はそこまでたくさんの人に見てもらっていたわけでもなかったので、SNS経由でプロデューサーの方の目に止まったのがきっかけだったのかなと。それからは、担当した仕事をきっかけにまた別の仕事をいただいて、という感じです。
─二子石さんの場合は、大学卒業後にHelixesに入社されますよね。そのままフリーランスとして活動することは選択肢になかったんですか。
二子石 そうですね。大学3年生ぐらいの頃から、個人でいただいたお仕事と並行して卒業後の進路を考えるようになりました。maxillaに出会ったのは、「映像でメシを食う」というイベントに参加したときです。正直、それまで実写の映像をそれほど熱心に見てきたタイプではなかったので、興味半分みたいなところもあったんですけど、maxillaのリールを見たときに衝撃を受けて。これまでイラストやCGを使った映像にばかり熱中していたけど、もしかしたら実写にも大きな可能性があるかもしれないなと。とりあえずつくった人と話したいと思って相談させていただいたのが入社のきっかけです。
Nate 実は、僕もそのイベントに参加していたんです。当時はあんまり深く話す機会はなかったですよね。
二子石 挨拶程度だったと思います。ただ、イベント自体は東京での開催だったんですけど、僕は九州からですし、Nateくんは京都からだったし、単純に就職活動の一貫というよりも、同じ志を持った人たちにたくさん会える貴重な機会ではありましたね。
Nate 僕の場合、やっぱりCGでしかつくれない世界観に惹かれて映像の世界に入ったので、自分が実写の映像を作ることはあまりイメージできませんでした。現実には存在しない、自分の頭の中にしかないものをビジュアライズするという楽しさが自分の中では非常に大きい。だから結果的に今もCGメインの仕事ですし、当時もその気持ちは強かった気がします。
映像作家としてゲームに携わる楽しみとは
─なるほど。ただ、働き方は違えど、最近は二人の手掛ける仕事の領域が重なることもあるようですね。
二子石 そうですね。冒頭にお話ししたアニメもそうですし、あとはeスポーツ関連のお仕事もそうです。昨年から今年にかけて僕が「VALORANT」や「APEX Legends」などeスポーツ周りの映像をつくらせてもらうようになったのですが、Nateくんは昔からCRカップの映像制作や配信デザインなどマルチに関わっている印象があって。どういった経緯でゲームの領域に携わるようになったんですか。
Nate もともとは僕が大学生になって、個人的に趣味としてゲームにハマったのが根っこにあります。その流れでいわゆるeスポーツの世界を知っていくうちに、当然だけどまだ発展途上な部分も多くて、自分に手伝えることがいろいろあるんじゃないかなと。自分から声をかけてみたのが最初ですね。
二子石 あ、自分からだったんですね。
Nate そうです。普通に応援はしていたんですけど、せっかくできることもあるから、もっと何かお手伝いできないかなと。それからCRカップを主催するプロゲーミングチームのCrazy Raccoonにメンバーとして迎えていただき、今も定期的にお手伝いしています。
二子石 昨年にはクリエイティブスタジオ「nim」も立ち上げられましたが、お仕事の内容としてはゲームが多い?
Nate そうですね。ゲームを中心にしながら、V.W.PというバーチャルアーティストのMVをやらせていただいたり、企業のCMをお手伝いしたり、ほかのジャンルもやっています。ただ、これまでゲームの仕事が多いから自然とそうなっているだけで、エンタメの領域であれば広く興味があります。それと、ゲーム系の案件の場合は、クリエイティブに関する裁量権を持たせてもらえることが多いというか、提案の自由度が比較的高い気がします。だから、お金以外の条件で合致するのがゲームというところもあるかなと。
二子石 確かにそうかもしれませんね。映像っていうと、一般的には大会のオープニング映像などを作る、とイメージする人も多いかもしれませんが、Nateくんは配信画面のデザインも含めた、大会全体をパッケージ化してクリエイティブを作り込んでいるので、一歩踏み込んでいる印象があります。
Nate 恐縮です。ただ、昔は実際に映像を作るときに手を動かすのが好きだったのですが、最近は「こういうネタを仕込んでやろう」みたいな、そのコンテンツのファンの方に向けて企画を練っている時間が楽しくなってきたという変化は感じますね。実際に作ってみて、SNSやコメント欄で意図した通りに仕掛けが刺さっているのを見るとやりがいを感じます。
─二子石さんもゲームには思い入れが強いですか。
二子石 ニコニコ動画に熱中したのも最初はゲーム実況からだったりするので、昔からゲームは好きでした。特に「VALORANT」に関しては、ローンチされた当初からゲーム周りのクリエイティブが洗練されていて、特にPVがめちゃくちゃかっこよかったのが印象に残っています。だから、仕事として依頼があったときは、自分がやらないわけにはいかないぐらいの気持ちでしたし、実際に仕事として取り組んでいくうちにeスポーツシーン全体のこともどんどん好きになっているところです。
─最後に今後の展望を教えて下さい。
二子石 アニメやゲームはもちろんなんですけど、今は何でも来い!という状態ですね。もともとは自分の興味のある領域とない領域とで分けて考えてしまう部分もあったのですが、自分の企画の立て方次第でどんな案件でも楽しめることが最近わかってきて。自分の得意なイラストやCGを使ったMVみたいなものは引き続きやりたいですけど、実写のドキュメンタリーとかCMとか、新しい領域にもどんどんチャレンジしていきたいですね。
Nate 僕が気になっているのはクライアントワークじゃない形です。もちろん、クライアントワークも楽しいですし、続けていきたいんですけど、何か指定がある中で作るだけではなくて、自分たちで何かコンテンツを作り出していけたらいいなと。最初はライトな形で、マネタイズできなくてもいいから試していけたらなと考えているところです。
二子石 確かにそれは夢の一つではありますよね。Helixesでも自分たちのIPを持つべく事業として模索しているところなので、自分たちの強みを組み合わせつつ、いかに新しいコンテンツを作っていけるかは自分も考えていきたいところです。
-
Speaker
Nate
Kazuya Futagoishi -
Interview & Text
Yosuke Noji
-
Edit
Kohei Yagi
Kentaro Okumura
Hanako Yamaura
Helixesへのお問い合わせはこちら Contact