Helixes Inc.のメンバーやそのマインドについて発信していく「Helixes.log」。
今回は、Helixesに所属する映像プロデューサー/ディレクターの田中大地が、「Nue inc」代表の松倉早星さんにインタビューを敢行しました。
京都に拠点を置き、プランニングやリサーチを強みとするNueですが、アウトプットの種類やプロジェクトの関わり方も変幻自在。あらゆる領域を飛び回る松倉さんの、人を惹き付ける魅力や、チーム作りの秘密を探っていきます。
Interview by Daichi Tanaka, Sosuke Minamiura
Text and Edit by Kentaro Okumura
「何をやっているかわからない」から良い
田中大地(以下、田中) 松倉さんのことは去年ある映像の仕事をご一緒させていただいたことをきっかけに知って、面白い人だなと思い色々と調べてみたんです。調べても何をしている人かあまりわからなかったのですが(笑)、お仕事が多彩だし、チームづくりについて書かれているnoteも読み応えがあって。
今日は松倉さんに良いチームづくりのヒントや、お仕事をどう考えているかについて伺いたいと思っています。まずはご経歴から教えてもらえますか?
松倉 京都の立命館大学で4年間ずっとバンドをしていて、就活はまったくしなかったんですが、ある友達が勝手に制作プロダクションにエントリーしてくれて。大学の単位も、その友達が全部代返などをして取ってくれていたんですよ。
田中 めっちゃくちゃラッキーですね(笑)。
松倉 それで目黒にあるウェブ系の会社に就職したんですが、2年ほど経つと、京都のほうが飲み屋に変な人が多くて面白かったなとか、東京だとライバルが多すぎるなと思うようになって。特に関西では私のようなウェブのプランナーが枯渇していたので、京都に行けば総取りできるんじゃないか?というずる賢いねらいと、単純に京都が好きだという理由で戻って、「1-10design」というチームに転職し5年ほど働きました。
その頃、プライベートで関わった「ホテル アンテルーム 京都」の評判が良く、デジタルではない面白さに気が付きました。プランナーはデジタル以外にも、もっと色々なプランニングが出来るんだって。その後、独立して「ovaqe」(読み:おばけ)という会社を立ち上げました。今は3社に分かれていて、そのうちの1社が株式会社Nueです。
田中 Nueは、まちづくりなど長期的なオフラインのプロジェクトが多いイメージですが、もともとウェブ系だったとは意外です。どのタイミングで長期的な、リアルな空間のお仕事に携わりたいと思うようになったのでしょうか?
松倉 もちろん最初は単発で作るのですが、リサーチやプランニングをすると1つのアウトプットだけではクライアントの課題が解決しないとわかってきます。1つ作ったら、次にやることが見えてきて、また作る。それを繰り返していると関係性がどんどん長くなり「向こう3年ぐらいのロードマップを描いてくれないか」と相談が来たりして、という感じです。
「本当の課題」はすごく深いところにあって、何か1つ作るだけでは薬として効かない。そういうケースがほとんどだと思いますよ。
田中 そういう時って、ブリーフや与件に関係なく「これぐらいやったほうがいいですよ」と伝えるんですか? そのあたりのクライアントとのコミュニケーションは難しいなと思うのですが。
松倉 私の場合「それは絶対にやらなくていいですよ」って言うこともありますし、その結果「やらなくていいなら、お仕事はしていただかなくて大丈夫です」と案件がなくなってしまうこともありますね。
クライアントとのコミュニケーションで気をつけているのは「絶対に嘘をつかない」ということなんです。例えば「新商品としてこれを売り出そうと思うんだけど、どう思う?」と聞かれた時に、ダサいのであれば「ダサいですね、私は絶対買わないです」と伝えるし、逆に面白そうであればそう伝えます。常に本音で話すんですよ。
「案件を取りたいからとりあえず誉めておこう」というスタイルではないですね。これは癖というか、性格かもしれません。なので、合わないところとは本当に合わないです(笑)。
でも特に私のお客さんは上下関係がないし、いい人が多いです。夕方ぐらいに打ち合わせがセッティングされて、終わってそのまま飲みに行くこともよくあって、酒を飲みながらふざけた話もせずに、自分の会社をどう良くしていこうかという話をしてくれる。
Nueを作った理由のひとつには、そんな人たちと一緒に話すうち「彼らにきちんと長く一緒に仕事ができる会社がないと、この人たちの期待に応えられないかもしれない」と思うようになった、という部分もあります。
田中 僕もコミュニケーションを健全にするために、常に連絡をこまめにするよう意識しています。それと、打ち上げの濃度をいかに上げられるか。これは今も奮闘中です(笑)。
以前松倉さんがnoteに書いていた「飲むことが営業」という記事を読んで、本当にそうだなと思ったんですよね。結局は人と人とのつながりだったり、どれくらいその人のことを理解しているかが、アウトプットのクオリティやプロジェクトの濃密さにつながる気がするんです。
松倉 私たちの案件は本当に飲み屋で生まれていますよ。うちのクライアントにも大手はたくさんありますが、最初は飲みながら仕事の話を聞いているだけです。仕事の内容を聞いたり、自分の仕事のことを話したりしていると「こういう風にするともっとよくなるんじゃないですか?」と自然とブレストになる。
それを「今度社内で言ってみます」と持って帰られ、そのまま採択されて、うちに発注が来るといった流れが多いです。だから、あまり営業をしているという認識はありません。「思い返してみると、あれが営業だったんだな」という感じです。
田中 でも松倉さんの仕事は、「何をしている人ですか?」と聞かれると言語化が難しいですよね。初対面ならなおさら。
松倉 そうですね。ただ一方で、「こういう仕事です」と言い切った瞬間に、うちの強さが消えると思う面もあって。例えば、浄土真宗の西本願寺のお坊さんに「新しい信者が増えなくて、どうしていいかわからない」という悩みを持ちかけられたことがありました。お坊さんは人の悩みを聴いたり、助言したりするのが仕事なのに(笑)。「困ったら松倉さんに連絡したらいいと言われたので連絡しました」と言うんです。
常にやったことのないことをしたいし、どんな相談が来るかわからないというのはすごく面白いので、この「わからなさ」が、むしろちょうどいいかなと思っています。
アウトプットのクオリティをあげるために、何が必要か
田中 お話を伺っていると松倉さんは、クライアントさんも含めて、スタッフでチームを作ることが得意なのだろうと思いました。チーム作りにおけるコツはありますか? 
松倉 Nueの場合、制作チームが社内に1人もいないので、毎回外部のクリエイターの仲間たちと作っていくスタイルを取っていて、お互いに何が得意なのか、今何を作ってみたいのかという会話をよくするようにしています。一緒に仕事する人たちと飲んでいる時は、だいたい「次はどんなものを作ってみたい?」って聞くことが多いです。その人の人間性を踏まえた上でスタッフィングが出来るので、良いチームをつくりやすいのかもしれないですね。
田中 松倉さん自身が、しっかりと人が集まる場所に「今混」(※)を作っていることも大きいのではないでしょうか?
(※)京都市中京区に位置する、クリエイティブ業務やビジネス開発などを業務とする人が所属する「もう一つの拠り所」として作られたコミュニティスペース。
松倉 そうですね。「今混」にはいろんな人たちが遊びに来たり、仕事をさぼりに来てくれます。地方に行っても必ず酒を飲む場はあるので「この町の若いやつらを全員集めて来て!」と言えば集まってくるし、そこで一気にチームになる、というような感じです。僕はそういう場で一人ひとりの個性を知るのが好きなので、つい深酒してしまうんですよね。
それと、私たちは作り込まれていない「空き地」のような状態を作ることが得意なんです。誰かがやって来て遊びを思いついたら、その人の場所になる。自然とそういうことが起こりやすい設計をしていると思います。
田中 近い人達が増えるのはいいですよね。僕もHelixesに転職した理由の一つに、異なる職種の人たちと近い距離感で、幅広い課題解決に向き合えそうだな、と思ったというのがあって。Helixesはmaxilla事業部のMVや映像のイメージが強いので「ディレクター集団」に見えがちですが、実はウェブやコンサル、プロデュース、企画など、仕事の幅がかなり広くて。少人数で多彩に動いているんですね。
前職は会社の構造上、どうしてもトップダウン型で仕事が進むことが多くて、それ自体は悪いことではないですが、Helixesの方が社内のメンバーはもちろん、近しい作り手の皆さんとより濃く連帯しながらロスの少ない形でプロジェクトを進めることができていると感じます。
松倉さんの中で「いい仕事をした」という判断基準はどこにあるのでしょうか。
松倉 うーん、どちらかというと、作るたびに「あそこをもう少し頑張れば、もうちょっとクオリティが上がったかもしれない」と反省することのほうが多いと思います。そもそもアウトプットは自分の仕事だと思っていなくて、デザインであればデザイナーがやった仕事ですし、いつも「みんなが作ったものだな」という感じで成果物を眺めます。
ただ「制作のプロセスを変えていたらクオリティが上がったかもしれない。もう少し深みがある展開になったかもしれない」と思うことは時々ありますね。特に空間やホテル、講演を開発する時に強く感じます。時間軸もあるし、空間の中を人が動き、演者が演奏することもある。そういう目で全体を見ると「あそこにもっと気を遣っていたら、もっといい世界観がつくれたのに」という点がたくさん見つかるんです。
私の仕事ではありませんが、最近すごくいいなと思ったものがあって。リサーチで鳥取へ出張した時に「面白い施工チームがいるから紹介するよ」と言われて行くと、パンツ一丁でスケボーに乗っているヒッピーみたいな人が迎えに来たんですね。
田中 (笑)。
松倉 フリーランスの大工からなるチームに所属している人で、そのチームは「今度ここで施工があるから集まれ!」と号令をかけると、日本中から大工や電気施工の職人が集まってくる。基本的には施工が主な仕事ですが、例えば「森、道、市場。」のブース設計も担当していたりと、カルチャーによった気持ちのいい人たちで。
みんなバラバラな個性を持っているのですが、そのクルーの中の1人に、カレーを作るのが得意なデザイナーが混ざっていた。それが気になって「なぜ仲間にカレー担当がいるんですか?」と聞いたら、「大工仕事は身体を酷使するから、怪我をしないように必ず決まった時間にご飯を食べる。身体を動かすのはご飯だから、私らにとっては、この人がいることがすごく大事なんだ」と仰っていて、ものすごくいいなと思って。
田中 チームに料理担当がいるんですね。
松倉 そう。これまで仕事の中での「食」については「美味しいケータリングを頼もう」くらいの意識しかなかったのですが、これほどにまで食べることを大事にしてものづくりをしている人に初めて会いました。すごく若いチームなのですが、とても刺激を受けて早速真似しようと思いましたね。
やっぱりグルーヴが生まれると、いいものづくりができるし、予定より巻きで終わるから浮いた時間をクオリティの向上に使える。うちのチームに取り入れるにはどうすればいいかなと考えています。
田中 グルーヴという意味で言うと、チームでの意志共有は難しいですよね。いつも悩みます。
松倉 私がNueになってからやってみてハマりがよかったのは、インナーコンセプト、つまり制作チームとクライアントだけが見る、制作者たちの共通言語のようなコンセプトを作ることです。コンセプトと聞くと「誰が見てもわかるように作らなくてはいけない」というフィルターをかけて、平たく作ってしまいがちですが、この「裏」のコンセプトを作るとより動きやすくなり、グルーヴ感も作りやすくなりました。
例えば京都の崇仁地区に「崇仁新町」という飲み屋街を作るプロジェクトでは、表向きにはポップなコンセプトを謳っているのですが、インナーコンセプトは「闇市」でした。現代の闇市を作ろうと言って、色々な人たちに声をかけると、「面白そうだね」とか「あ、そういうことね」と言って、みんなそのテンションに乗っかってくれるので、スタートが早かったです。
 “らしさ” を考え続ける
田中 対面でのコミュニケーションや、現場に赴いて見たり調べたりすることが多い松倉さんの場合、コロナによるお仕事への影響が大きかったのではないでしょうか。
松倉 最初のピークの時は大変で、対面で会えないのでうちの本質的な仕事のやり方がまったくできませんでした。zoom飲みもやってみましたが、何も面白くなかったですね。「俺たちの飲みって、こういうやり方ではなかったな」って気づきました。チーム内でも、クライアントとも「会わないとダメだよね」ということがお互いの共通認識として持てた気がします。もちろん今はオンラインが大半ですが、重要な局面では対面でないとだめですね。
それと、うちのようなチームは福利厚生がものすごく弱いのですが、コロナで案件が止まって仕事がなくなったカメラマンが多かったことや、ロケが出来ないことで苦しい思いをした同業者のことを考えて、保険屋さんにクリエイター向けの保険を作れないか相談しました。こういう時に、彼らのサポートになるような保険を作れないのかなと。
田中 それは面白いですね。
松倉 今は「どうすれば次の世代が安心して作れるような環境にできるか」ということをよく考えますね。先日も、京都にあるプロダクション数社で少しずつお金を出せば京丹後に家を1軒借りられるから、ちょっと手直してみんなで使える場所にすればいいのではないかという話をして。全国の色々なところにゴロゴロできる場所を作って、誰でも使えるようにしてもいいかなと思っています。
田中 ほかに、今後やりたいことを教えてもらえますか?
松倉 今、Nue以外にも「空狐」(読み:くうこ)という会社を経営しています。1人が3社ぐらいに所属したり、経営したりすれば絶対に死なないだろうと思い、ひとまず3社作ろうとしているところです。少しだけずらした産業の会社を作れば、万が一Nueの商売が立ち行かなくなった時でも、他の2つで食える。うちの社員にもトライしてもらいたいなと思っています。
この「空狐」ではホテルの開発事業や、何らの事情で使われなくなった遊休資産(※)に新しい価値付けを行って新しい経済圏を作っていく仕事を手がけています。
(※)企業が事業目的で取得した資産のうち、何らかの理由で稼働(使用)していない資産のこと。「稼働休止資産」とも呼ばれる。
田中 ちなみにこの機会に聞いてみたかったんですが、maxillaというチームを客観的にどう思いますか?
松倉 初めて会った時から変わらないスタイルでスケールしていることがすごいと思います。僕がmaxillaと仕事をしたいと思ったのは、カッコいいMVをたくさん作っていたからですが、その頃から姿勢が明確にありますよね。ワークスを見たら「色々仕事をしているな」と思う会社はありますが、maxillaのようにスタイルが一貫しているところは多くありません。依頼がきた時に「これはmaxillaだよね」とすぐ言えるというか。
田中 松倉さんにそう言っていただけると安心します。今まさに、これまでのイメージにとらわれず、仕事の領域を拡大・スケールさせようとしているところで。いろんなアクションを起こす中で、その“らしさ”がなくなったらまずいなと思っています。
松倉:そのらしさがなくなったらやばいと思います。私もたまに「この選択をすることはカッコ悪いんじゃないか?」と、足が止まる時があります。この感覚は、バンドをしていた時に培ったのかもしれないですね。音楽ももちろん好きですが、すごくカッコいい先輩バンドの「姿勢」が好きでしたし、そこから影響を受けた気がします。
うちもそうですが「自分たちが何をカッコいいと思ってやってきたのか」を忘れたら本当にひどい会社になると思うので、お互い、“らしさ”を忘れずにやっていきましょう。
田中 そうですね。今後は映像などの視覚的な印象だけではなく、プロジェクトのトーンや指向性からもHelixesらしさが立ち上るように考え続けないといけないなと思います。
昨年、キャンペーンのクリエイティブの設計・プランニングから関わらせていただいた、adidasの「OZWEEGO」のように「なぜこの企画を実行するのか」という根の部分から関われるよう、頑張っていきたいです。
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