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オタク談義「DJ DJ 機器と語る、ぼくらのK-POPミュージックビデオ偏愛歴」

2020.06.12

Helixes Inc.のメンバーやそのマインドについて発信していく「Helixes.log」。

今回はK-POPに精通し、秋葉原MOGRAを中心に「TodakTodak」「LiarLiar」などのK-POPイベントを主宰するDJ DJ 機器さんと、Helixes随一のK-POPヲタを自称するディレクター・山口悠野がその魅力を徹底談義。映像制作者としての目線から、純粋なアイドルファンとしての目線まで、縦横に織り交ぜながら語らった2時間の記録です。

(※末尾には山口が厳選した韓国の映像プロダクションリストつき!)

DigipediとVM Projectがシーンを変えた

ー今回はK-POPに造詣が深いお二人に、K-POPを中心としたMVの世界の魅力を伺います。まずは自己紹介と、K-POPにハマった経緯を教えてください。

DJ DJ 機器(以下、DJ機器) 「DJ DJ 機器」と申します。約8割はK-POPをかけるDJです。秋葉原のMOGRAを中心に「TodakTodak」「LiarLiar」というK-POPイベントをというK-POPイベントをe_e_li_c_aさんとやっていまして、フライヤーのデザインも、毎回K-POPアイドルのジャケットなどのパロディで自分が作っています。いつ怒られるか心配です。

デザイン:DJ DJ 機器、イラストレーション:TEMPLLA

山口悠野(以下、山口) maxillaのディレクターの山口悠野です。僕がK-POPにハマったきっかけは、YouTubeで偶然流れてきたBIGBANGのMV。何回か見るうちに気づいたら好きになっちゃいました。特に「FANTASTIC BABY」が好きで。

DJ機器  かっこよかったですよね。僕は少女時代やKARA、T-ARAあたりの時代にハマったんですけど、2012年くらいに音がエレクトロ一色になって、一度離れたんです。これだったらビルボードのチャートの曲を聴くほうがいいなって思っちゃって。映像じゃなくて楽曲ベースだったんですね。ところが2014年くらいになって、SMエンタ(※)あたりのアイドルが変わった曲を出してきて、再びハマりました。少女時代TTSの「Holler」やf(x)の「4 Walls」には衝撃を受けました。

(※)S.M.entertainment:ソウル市拠点で、元歌手のイ・スマンが代表を務める総合エンターテイメント会社。東方神起、SUPER JUNIOR、少女時代などトップアイドルを輩出してきた、韓国のエンタメを代表する存在。

個人的にはこのガラージみたいな曲が、シーンのゲームチェンジャーになったと思っています。これはLDN Noise(ロンドンノイズ)っていう、ロンドンを拠点とするデュオのプロデュースです。もともとはAgent XというUK garageのプロデューサーで、同一人物だと知ったときはひっくり返りました。


ーかなり初期からハマっていたんですね。

山口 ざっくり言って、K-POPは3つの時代に分けられるんじゃないでしょうか。最初に少女時代とかT-ARA。その次にBIGBANGやEXO、2NE1とかが出てきて、今はBLACKPINKやTWICEの時代です。僕らがK-POPを好きになったのは2013〜14年の、ちょうどBIGBANGとかEXOがデビューした第二次ブームの頃。でもそれは入り口であって、僕が本格的にハマったのは、そのあとにDigipedi(読み:ディジペディ)やVM Project(以下、VM)が出てきてからなんです。

ーDigipedi…ってなんですか?

山口 DigipediとVMは、今のK-POPの雰囲気を作ったと言っても過言じゃない、韓国の超有名映像プロダクションです。それまでのK-POPのMVって、少女時代に代表されるような「キラキラ、ゴージャス」な世界観が多かった。先ほどの「FANTASTITC BABY」にしても、とにかく強い絵面って感じじゃないですか。でも彼らはおシャレっていうか、Vimeoっぽい、CANADA(※)っぽいトーンだった。海外のイケてるMVをリファレンスにしていたんだと思われます。Digipediが撮ったEXIDの「UP&DOWN」やFIESTARの「One More」、VMが撮ったRED VELVET「Dumb Dumb」、EXO「LOVE ME LIGHT」あたりから、韓国のMVの方向性が変わってきたと感じました。

(※)バルセロナとロンドンに拠点をおく、世界的なクリエイティブ・プロダクション。

DJ機器 意味の多くないカットが絵力だけで繋がっている感じとか、CANADAっぽいですよね。画角や色の使い方とかが明らかに変わった気がします。

ー彼らの存在が大きいとしても、映像の方向性が全体的に変わってきた要因としては何が考えられるのでしょうか。

DJ機器 何でしょうね。映像の技術的な部分?

山口 いや、もしかしたら世界中の映像が見れるようになって、リファレンス(参照元)が変わったのかもしれません。ちょうどその頃はVimeoやtumblrが広がったときだったので。

DJ機器 あぁ〜。MVの一部がGIFで切り抜かれてtumblrでシェアされていたりしていましたね。カラーチャート的に使う人もいたんじゃないでしょうか。

それにしても、SMのような巨大な事務所が、よく彼らのようなクリエイターを見つけてくるなぁって思います。もともと若手をよく使うところではあるけど、言ってみれば日本でいうジャニーズのような規模の会社ですよ。

山口 VMのサイトを見る限りでは、EXOを手掛ける前にサムスンやアディダスの仕事をやっていたようなので、その仕事をSMの人が見て目をつけたのかもしれません。あと、やっぱりミンヒジンさんの影響が大きいんじゃないかな。作品のクレジットにも書いてあるけど、アートディレクションとしてミンヒジン、プロダクションにVMの名が記されてる。ミンヒジンさんが気に入って彼らを採用した可能性もあります。

アートディレクションの流れを変えた重要人物・ミンヒジン

ーミンヒジンさんとはどのような人物なのですか?

山口 SMエンタに所属していたアートディレクターで、服やジャケットのデザインがゴージャスでギラギラという、それまでのアイドル像から逸脱したアートディレクションをした方です。中でもf(x)の「Pink Tape」のときに公開した、通称“アートフィルム”が有名です。

DJ機器 これ、ミュージックビデオでもなんでもない、ただの謎映像なんです(笑)。トータルでディレクションしたのはこの作品が初めてだったみたいですね。もともと少女時代やSUPER JUNIOR、SHINeeなんかのステージ衣装を作るところからキャリアをスタートしたんですが、この辺から映像のクリエイティブまでトータルで関わるようになっていきます。

ー顔が映っていなかったり、いわゆるアイドルっぽくないディレクションですね。かなり攻めているというか。

山口 しかも、この記事によるとミンヒジンさんの自主提案のよう。メジャーな事務所がこの企画にOKを出せることがすごいですよね。

DJ機器 個人的に彼女のディレクションと一番相性が良かったのはf(x)だと思っていて。フィジカルの出来やブックレットの写真がすごくよかった。これはK-POP全般に言えることなんですけど、フィジカルの仕様がとても豪華なんです。ブックレットが100ページくらいあったり、ハードカバーだったり、トレカが付いてたり。箔押しやニスを使った加工とか印刷も凝っていて、日本なら7、8000円になりそうな仕様なのに、1500円とかで売られている。

山口 プロダクトのコンセプトが一致していて、ジャケットやMVのビジュアルのトーンが一貫しているのがいいですよね。彼女は美大出身で映画やアートフィルムを志望していましたが、あるとき大衆音楽に興味を持ちSMに入社。コツコツ頑張ったのち、f(x)で初めて全て任されたようです。ミンヒジンさんは、それまで曲単位やMVごとにバラバラだったビジュアルディレクションを、一人が統一して作るという手法を確立したんです。

俺の推しプロダクション&MVはこれだ!

ーほかにもオススメのプロダクションやMVがあれば教えてほしいです。たくさんありそうですね(笑)。

山口 ありすぎて、何から話せばいいのか。

DJ機器 僕の最近の推しは「VISUALS FROM」です。とにかく画が綺麗。hyukohの「Gondry」では、豪雪の開けた画の中央にポツンと1人映っているんですが、こういう全体的に引いた画、抜けのいい画がすごく好きです。

山口 僕はOui Kimさんというディレクターが好きです。名前の読み方がずっとわかってないんですが(笑)。最初に見たのは、プロデューサーのPRIMARYとhyukohのヴォーカル・Oh Hyukがコラボした、CGが特徴的な「Island」。ポエティックでめちゃくちゃいい。僕もCGやモーショングラフィックから入って今実写をやっているので、Ouiさんには勝手に繋がりを感じています。ウクライナで撮影している、王道のかっこよさが楽しめるNCT Uの「BOSS」、nishikaっぽいエフェクトやgifの質感が印象的なWINNER「LOVE ME LOVE ME」、ドキュメンタリータッチのhyukoh「Leather Jacket」など、作品の幅が広いのも特徴です。

あと、GFRIENDの「NAVILLERA」。Ouiさんはインタビューで「私は偶然撮れたものに美しさを感じる」って言っていて、例えば0:28あたりのカットで、一番左の子(ウナちゃん)が靴を気にするんですね。おそらくNGカットだと思うんですが、それをあえて使っている。逆にもしこれをディレクションしてるとしたら「ウナちゃんはちょっと間違えてね」という指示をしているということになる。

DJ機器 そうだとしたら、この演技ができるのもすごいですよね。

山口 そう、どっちにしてもすごいなと。他にも一体どういうディレクションなんだっていう、不思議なカットが多くて。1:10あたりの歌いながら髪をくしゃくしゃするカットや、2:04のソロのリップシンクから上へのパン(※)、2:12からのカメラへ振り返ってのリップシンク、などなど。もはや思想を感じますね。

(※)固定されたカメラを左右に振る撮影技法。該当のシーンでは右斜め上へ振っている。

DJ機器 普通はカットを割るところで割っていなかったり、たしかに不思議。

山口 あと最後の3:21の、みんながロッカーに突撃しているカットとか、なんなんでしょう。はしゃいでる感じが出したかったんでしょうか。でもこういうところが好きなんですよね。そういえば、Crushの「Mayday」めっちゃよくなかったですか?

DJ機器 良かったですね。CrushっていうR&BシンガーとRed VelvetのJoyがコラボした曲です。

上手いなぁと思うのが、CrushはこのMVで撮ったと思われるカットを、TikTok上でおもしろ映像として出しているところ。NGカットなのかはわからないですが、生クリームを出そうとして爆発しちゃった動画とか(笑)。プラットフォームに合わせてラフに広めている。Balming Tigerもオススメですね。

山口 この「Armadillo」は、Pennackyさんという日本人の若手のディレクターが監督しています。彼らのMVだと、kinotakuというディレクターが撮った「I’m sick」も社会を風刺した内容で好きでした。韓国で社会問題となっているネットゲームやSNSの負の側面を描いているようで、部屋に籠もって狂ったようにゲームをするうち、だんだんハイになって壊れていきます。

ーおしなべて言うなら、韓国のミュージックビデオの特徴はどんなところにありますか?

山口 美術だと思います。美術って、すごくお金がかかるんですよね。僕が実写撮影を始めたのは、maxillaに入社した3年前なんですが、美術の費用感に驚きました。しかも分かりやすく予算とクオリティが直結してしまう。その点、MVにとんでもないお金をかけている韓国のセットはすごいですよ。例えば日本だと、がっつり世界観のある部屋を作ろうとすると1部屋でウン百万かかるんですけど、K-POPのMVでは1曲の中に5、6部屋とか平気で出てくる。

DJ機器 MVの制作費は、日本の10倍どころじゃないのではないでしょうか。

山口 韓国のエンタメは世界で勝負していますから、YouTube(上にあげる映像コンテンツ)に力を入れるのは当然なのかもしれません。LOONA(正式表記:LOOΠΔ)の「Butterfly」とか、わけわからないくらいの人数が関わってましたよね。

DJ機器 まず撮影地がパリ、香港、ロス、アイスランド、韓国。映画かっていう。ちなみに、LOONAはデビューからすべてのMVをDigipediが作っているアイドルで、所属している「BlockBerry Creative」って事務所は何故か(調べると理由は出てきますが笑)ものすごくお金を持っているんですね。BlockBerryはLOONAをやるために作った会社なんじゃないかな。

山口 韓国のMVを見ていると、全体的に若さを感じます。エフェクトとかカラーライティングを見ても「わかるわかる!」って(笑)。僕らと同年代か少し上くらいの人たち(30代前半)の人が多いんじゃないかな。

DJ機器  絶対ウォン・カーウァイとかに影響受けてるでしょ、っていう。絵作りとか照明もリッチ。で、そのリッチな映像にアイドル自体が飲み込まれないこともすごいんですが、これは韓国にある練習制度が下支えになっています。韓国のアイドルって、デビューするまでに平気で5年とか7年とか練習するんですよ。TWICEのジヒョさんなんて、10年(の間練習を)やってますからね。

山口 何歳から練習し始めるものなんですか?

DJ機器 10〜12歳とか。デビューできなくて辞めたり、事務所を移ったりする人もいます。韓国の事務所って、リソースの問題から1つのアイドルをデビューさせると、その後2年くらいはデビューさせられないんです。だからデビューできないと「もう2年待つなら他のところに行くか」という人もいるみたいですね。

山口 デビューの時点で仕上がってるのはそのためなんですね。

DJ機器 若くても、練習で培った表現力が土台にあるから、リッチな映像に食われない。逆に言えば、日本と違って韓国のアイドルには「俺が育てた感」がないのかもしれません。個人的には完成度の高い楽曲やパフォーマンスを見るほうが好みなので、ありがたいです。

山口 なるほど。今はDigipediとかVMに限らず、まだまともな情報のないディレクターやプロダクションがたくさん出てきていますよね。しかも全員めちゃくちゃセンスがいいから、普通にへこみます。

DJ機器 (笑)。僕はDJなので、みなさん優秀なMV作っていただいて本当にありがとうございます。いつも楽しみにさせていただいております。これからもがんばってくださいと伝えたいですね。

付録:🔍⚡🌏🎬🔥山口による韓国プロダクションリスト資料

  • Speaker

    DJ DJ kiki
    Yuya Yamaguchi

  • Interview & Text

    Kentaro Okumura

  • Edit

    Kohei Yagi
    Mami Sonokawa

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