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SIGNIF荒牧 × 千合洋輔 × maxilla神谷「アニメとモーショングラフィックスの共鳴」

2020.09.24

Helixes Inc.のメンバーやそのマインドについて発信していく「Helixes.log」。

今回のゲストとしてお迎えするのは、CGやモーショングラフィックスを主軸としたクリエイティブエージェンシー「SIGNIF」代表の荒牧康治さんと、フリーランスのデザイナーで映像作家の千合洋輔さん。

彼らとともに『ダーリン・イン・ザ・フランキス』のOPなどを制作した、maxilla(Helixesのクリエイティブ事業部)のディレクター・神谷雄貴が、モーションデザイナーとしてアニメ作品に関わる意義をテーマに語り合います。

アニメOPとモーショングラフィックスの接近

ーアニメーション作品に関わるようになったきっかけを教えてください。

荒牧康治(以下、荒牧) モーショングラフィックスを始めた時から、海外のモーショングラフィックスの文脈だけではなく、日本のアニメの独特なケレン味の効かせ方を自分の映像に活かせないかとアニメをよく観るようになりました。

具体的にアニメ作品に関わるようになったのは、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』などを手掛ける「カラー」に所属しているデザイナーの釣井さんという方と、たまたまTwitterで知り合ったのがきっかけです。釣井さんが東京に来るタイミングでお会いして、同社の皆さんを紹介していただき、そこから仕事を度々させていただくようになったんです。人の繋がりでお仕事をいただくことが多いですね。

千合洋輔(以下、千合) 僕はアニメはもちろん、MADなど、アニメとグラフィックが組み合わさった映像も好きで。そんな流れもあって、モーショングラフィックスを使ったアニメのオープニング(OP)が出てきた頃から、機会があればやりたいなぁとずっと思ってきました。実際に制作に関わるのは、荒牧さんと知り合ってお仕事のお誘いいただいてからです。

荒牧 大学生の後半くらいから、仕事としてのアニメーションを意識し始めていました。当時、モーショングラフィックスをやっている人にはアニメを観ている人が多かった気がします。細金卓矢さんが『四畳半神話大系』のエンディングを担当されていた頃ですね。僕の場合は『交響詩篇エウレカセブン』を観た影響が大きいのですが。

アニメ『四畳半神話大系』のエンディング映像 / 2010

千合 僕も大学生の頃はたくさんあった時間を使って多くのアニメを観ていました。学校祭も行かずにひたすら観る、みたいな。

荒牧・神谷雄貴(以下、神谷) わかる(笑)。

千合 細金さんを筆頭に、グラフィック性を重視したOPが出てきていたので、卒業にかけてアニメのOPやEDに関わりたいという熱が上がっていった感じでした。

ーその当時のアニメのOPがよりグラフィカルな趣向へと接近していたんですね。

荒牧 少なくとも、それまでとトーンが違ってきていたかもしれません。例えば「シャフト」というアニメ会社のOP作品にはキャラクターのシルエットをベタ塗りで見せていたりと、モーション的に解釈出来る作品が多く出てきていました。そういったグラフィカルな趣向が広がっていたのが2010年前後とかだったかな。

「シャフト」制作のOP映像 / 2000年代後半〜2010年あたりの作品

神谷 2人とは経歴が全然ちがうけど、興味をもった流れはだいぶ似ていて驚いてます。当時モーショングラフィックスはまだ開拓されていない分野というか、そもそもプレイヤーの人口が少なくて、趣味嗜好も近い人間で構成されていたのかな。

荒牧 そうだね。ある程度モーショングラフィックスをやっている人はみんなTwitterでつながっているというか。

神谷 ただ僕の場合は、SNSで名前を出したり表立って活動をしてこなかったので、後に出てくる『ダーリン・イン・ザ・フランキス』のOPで二人と関わるまでモーション界隈の知り合いはほとんどいませんでした。アニメ好きな荒牧・千合コンビとの出会いは、それまで一人で遊んでいたところに急に仲間が増えた感じで嬉しかった(笑)。

ー自分の経歴を振り返って、重要な作品はありますか?

荒牧 1つは、学生で仕事を始めたての頃にVimeoへ上げた作品がスタッフピックを取ったこと。もう1つはPerfumeのライブ演出に携わらせてもらったことです。当時はTakcomさんや井口さんなど、モーショングラフィックス界隈で良いモノを作っている人がPerfumeのライブ映像を担当していて。Perfumeのファン層にも映像に興味を持つ人が多いので、そこからいろんな方に知ってもらえたように思えます。

荒牧作品 「Super Tropic Tramp」2013

千合 まず思いつくのは2.5DのIDです。当時、MTVやSPACE SHOWER TVといったカルチャー番組のIDをモーションデザイナーが作る流れがあって。クライアントワークにおけるモーショングラフィックスは、全体のクリエイティブの一部という位置であることが多いのですが、IDはモーショングラフィックス単体で作品になるという、自分にとって貴重な場だったんです。

もう1つは、愛知県にある「MIZKAN MUSEUM」の「時の蔵」というエリアに収蔵されているアニメーションに参加したことです。キャリアの最初の頃は、どうしてもスパンが短い仕事が続くため長い時間を掛けられる仕事があまり無かったのですが、この作品は約1年ほど掛けて作らせてもらいました。じっくりやる面白さや細かい所に向き合う時間が出来たのがよかったですね。

千合作品「2.5D Motion IDs -2014 winter- 」 2014

神谷 学生の頃からデザイナーやイラストレーターとして活動していたのですが、初めて仕事でしっかり「映像」を作って後の転機となったのは、amazarashiのCD特典のゲームを作る仕事でした。てるてる坊主みたいなキャラクターが障害物を避けていく横スクロール型の2Dゲームで、キャラクターアニメーション、背景イラストの制作と動かしなどプログラミング以外の作業は一人で行いました。

このあたりから、素材を描いた上で動かす、という仕事もちらほら増えていきました。Ash Thorp(※)やYKBXさん(※)など、絵が描けて3DCGもモーションもデザインもできるというのが自分にとって非常に模範的で、彼らのように機能することが一つの理想でしたね。

※Ash Thorp…クリエイティブ・ディレクター、グラフィックデザイナー。「エンダ―のゲーム」「猿の惑星: 新世紀」といった映画のグラフィックスやモーショングラフィックスを手掛けてきた。

※YKBX…映像作家、グラフィックデザイナー。amazarashiのビジュアルディレクションを約10年に渡り手掛けており、親交が深い

神谷作品「amazarashi 『祈り ~pray for world~』 (フラッシュゲームコンテンツ)」2012

有機的に溶け合う、3人のスキルとセンス

ーこの3人が中心となりOPを制作したアニメ作品が『ダーリン・イン・ザ・フランキス』(以下、ダリフラ)と、『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』(以下、FGO)。2作の制作プロセスを教えてください。

荒牧 釣井さんが『ダリフラ』の3Dのディレクターとして参加することになった時に声を掛けていただきました。僕は本作の監督の錦織敦史さん(※)が手掛けた『アイドルマスター』など他作品も見ていたので、是非参加したいとお返事して。で、何度かモーション作品を一緒に作ってきた千合さんに声を掛けたのですが、作画の絵と組み合わせる形でアニメのOPを制作するのは初めてで、2人だけで制作するのは人手的に心許なくて。

そこで知り合いのモーションデザイナーの山口さんに相談したら「俺はそこまでアニメに興味がないし、実はいま(フリーランスではなく)maxillaに入ってて…」と言われて紹介されたのが、神谷さんだったんだよね。

神谷 もちろん2人のことは知っていたし、『ダリフラ』という錦織さん監督のアニメが放送予定ということも知っていたので、即「やりたい!」って返事しました。

※錦織敦史…アニメーター、演出家。代表作に『天元突破グレンラガン』、『パンティ&ストッキングwithガーターベルト』など。

ーこの3名で同じOPに取り組む場合、どのように役割分担するのでしょうか?

荒牧 いつもは、シーン毎に大まかに振り分けます。グラフィックデザインができる神谷さんはクレジット周りとコンポジット。千合さんは作風に品があるのでラストや冒頭を。僕はサビなどの動きが激しい部分を担当します。それぞれの得意分野で振り分けますが、最後は「ここが終わっていないからやってくれる?」という感じで総力戦になることもしばしば。僕ら3人は対等な立場だし、お互いのクオリティを信頼しているので、柔軟に制作できました。

千合 特に『ダリフラ』の2期は、それぞれの役割がより「溶けた」感じがしましたよね。最初は役割分担していたのに、最後にはその分け目が消えて混ざり合ったんです。OPが流体的な、水の中というテーマだったので、僕たちの「混ざり合った感じ」が映像にも出せたのかもしれないと思っています。これは、3人で何度も制作してきたからこそできた表現ですね。

『ダリフラ』2期OPの1カット / 背景CGと撮影は千合、文字のデザインとモーションは神谷、トランジションエフェクトは荒牧が担当
主に千合が担当したカットのコンポジット例

©ダーリン・イン・ザ・フランキス製作委員会

ー『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』についてはいかがでしょうか。

荒牧 『ダリフラ』の場合は、監督のOPのイメージがある程度固まった段階から参加させていただいたのですが、『FGO』では赤井俊文監督(※)のざっくりとしたVコンテをもとに「キャラクターをどうレイアウトしてアクションさせるか」も含めた、演出の深い部分から参加しました。そのあたりの走り出しは僕と神谷さんで担当したのですが、神谷さんの画力には助けられましたね。

神谷 映像の仕事でコンテを描くことは多いのですが、去年くらいからアニメ関係で絵コンテを描く機会も増えてきました。荒牧さんと共に関わった作品だと『アサシンズプライド』というアニメのOPもコンテ制作から担当しています。FGOでは、監督やプロデューサーの方の懐の元で自由度高くやらせてもらえて、貴重な経験になりました。

※赤井俊文…アニメーター、キャラクターデザイナー。『ダリフラ』では副監督を務めている。

神谷が担当した絵コンテ

荒牧 アニメの仕事の場合、準備期間はそれなりにあるから、線撮などで仮組みはしていくんですけど、最終の素材が上がってくるのがどうしても納品直前で、そこから一気に最終の絵を作っていきます。そのため、1人では物理的にどうにもならないんです。そういう時に細く指示を出さなくても、それぞれが自分で考えて良いモノを作ってくれる人が居るというのは心強いですね。撮影にCG、モーショングラフィックス、演出など、複合的に出来る人はあまりいないんじゃないかな。

神谷 『ダリフラ』も『FGO』も「どう役割分担したの?」ってよく聞かれるけど、思えば僕らだから成り立つようなプロセスで端的には説明しがたくて、本当に有機的に作り上げていった気がする。明確に役割分担のあるアニメ本編の制作とは対照的です。

主に荒牧が撮影・CGを担当したカット / テキストのデザインとモーションは神谷が担当
荒牧(上段)、千合(下段)が撮影・CGを担当したカット / 黄金の砂塵はX-particlesで生成している

©TYPE-MOON / FGO7 ANIME PROJECT

独学で裏道から辿り着いたアニメ業界

ーアニメーションの映像に関わるお仕事ならではのやりがいは、どんなところにありますか?

荒牧 アニメは映像そのものが商品ということもあって、映像の作り手へのリスペクトを強く感じます。関わった人は全員が最後にクレジットされますし、良い提案であればどんどん取り入れてもらえます。純粋により良いものを作る姿勢がみんなにあるから、挑戦的な事もしやすい。制作が終わった後の充実感が大きいですね。

千合 アニメの場合、演出を考えるにあたって、絵コンテや脚本を通して物語を読み解いていきます。ビジュアルを組み立てるためのキーワードや印象を検討するための材料は、物語が中心になるんです。なので、グラフィックの動かし方や、色彩にいたるまで「ストーリーの魅力を感じてもらうために、どういう表現にしよう」という切り口で考えることが多く、そこが普段のお仕事での脳の使い方と全く違って面白いですね。

それと、やはり作品自体が好きで参加しているので、自分のアイデアで作品に貢献出来る可能性があるというのは、作り手としてとても嬉しいことです。

荒牧 アニメはやっぱりファンの愛情が強いコンテンツだし、僕らがあまり考えていなかった部分まで深読みしてくれたりしていて、そんなファンの方々の感想をこっそり見るのも面白いよね。

ー神谷さんはいかがですか?

神谷 僕は絵が好きでイラストレーターもやっているので、アニメに関われるだけでやりがいしかないのですが、そもそもアニメ業界自体が作り手として関わるにはハードルの高い存在に感じていたんです。

そこで自分ができる「デザイン」を通してアニメに関わりたいとも常々考えていたのですが、「アニメ」×「デザイン」という土俵はBALCOLONY.さん、草野剛さんや有馬トモユキさんといった強者揃いのレッドオーシャンの印象があって。

ただ、そこにモーショングラフィックスを含めた映像表現を掛け合わせると存在感を出せる気がしていて。僕が関わった『約束のネバーランド』のOP制作では、『ダリフラ』の錦織監督が演出を担当されたのですが、僕が普段実写MVの制作をしてるのも知ってくださっていて、「この乃木坂46のMVのようなレンズフレアを入れたい」など新鮮なオーダーがいくつもあったんです。アニメというのは、モーションに限らず領域を横断した表現のできる分野だなと感じています。

神谷が撮影の仕上げやモーションデザインを担当した『約束のネバーランド』OP

©白井カイウ・出水ぽすか/集英社・約束のネバーランド製作委員会

ー最後に、今後の展望を教えてください。

千合 個人的な興味で言えば、空間と一体になった映像をつくってみたいですね。僕は目線の動きを考えるのが好きで、どんな動きをつくれば、人は何かに注目したり追いかけたりするのだろうとよく考えています。劇場アニメ作品に携わり、大きなスクリーンに映し出された映像を観るなかで、視線誘導について考える機会がより増えました。フィジカルな体験が出来るように、物理的なサイズや空間・環境を考慮して映像をつくりたいですね。

荒牧 僕と千合さんは『プロメア』にも関わらせてもらっていたのですが、その時のコヤマシゲト(※)さんのプロジェクトへの参加の仕方が羨ましかったですね。プロジェクトの初期段階から企画の深いところまで関わって、映像上では絵の見え方やひとつひとつのグラデーション等の細部までこだわり抜いて、Blu-rayやCDのパッケージまで統一してディレクションして。自分もそういう作品により深くコミットしてみたいです。外部の視点を持ちつつ、アニメの中枢部分や企画段階から関われたら、もっと新しい表現の組み合わせ方が考えられるのかなと思います。

※コヤマシゲト…イラストレーター、メカニックデザイナー。近年では『ベイマックス』のコンセプトデザインを手掛けたことも話題に。

神谷 有馬トモユキさんと瀬島卓也さんも『アルドノア・ゼロ』や『Re:CREATORS』などのアニメ作品に「アートディレクター」という立場で関わってるよね。アニメなら本編映像だけじゃなく、ロゴや広告、商品周りなどあらゆる制作物に関与して設計する立場というのはとてもやりがいがあるだろうなと思います。

荒牧さんも千合さんも一緒に仕事をするまで、シンプルに「モーションデザイナー」だと思っていたのですが、実際は肩書きにとらわれない複合的なスキルや興味があって。映像作品は一人の力ではでどうにもならないときが多いので、幅広い知識や技術のある人と仕事できるのは心強いし楽しいです。領域を横断して表現を追求する点で考え方が近い二人とは、今後も面白い相乗効果をだせるといいなと思っています。

荒牧康治 Koji Aramaki

映像ディレクター、モーショングラフィックスデザイナー。2018年にSIGNIF inc.を設立。抽象化したオブジェクトを用いたモーショングラフィックスを中心に、様々な映像表現を行っている。代表作に『龍の歯医者』OP、『プロメア』アヴァンモーショングラフィックス、『SPACE SHOWER TV -THE PLAYLIST-』など。

https://signif.jp/

千合洋輔 Yohsuke Chiai

デザイナー、映像作家。Viual DevelopmentとMotion Designを要に、劇場作品オープニングやアートワーク、インスタレーションや展示における演出やビジュアル設計に携わる。

代表作に『龍の歯医者』OP、『プロメア』アヴァンモーショングラフィックス、『The Tokyo Department Presented by NIKE ON AIR』モーショングラフィックスなど。

https://yohsukechiai.com/

神谷雄貴 Yuki Kamiya

maxilla所属の映像ディレクター、デザイナー、イラストレーター。グラフィックデザイン、モーショングラフィクス、3DCG、イラスト、アニメーションなど幅広い分野の造詣と技術に基づいたディレクションを得意とする。担当作に『約束のネバーランド』OP、『PATLABOR EZY』特報映像、『SPACE SHOWER TV -THE PLAYLIST-』など。

http://uki.jp/

  • Speaker

    Koji Aramaki
    Yohsuke Chiai
    Yuki Kamiya

  • Interview & Text

    Kentaro Okumura

  • Edit

    Mami Sonokawa

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