maxilla×WIT STUDIO|緻密な世界観設計と明確なディレクションが生んだ『神河:輝ける世界』アニメーショントレーラー制作の舞台裏
2022.06.22
Helixes Inc.のメンバーやそのマインドについて発信していく「Helixes.log」。
2月の公開から、半年を待たずして400万を超える視聴回数(2022年6月22日時点)を数える、マジック:ザ・ギャザリングのアニメーショントレーラー『神河:輝ける世界』。
国内外から数多く賞賛の声が挙がるこのアニメPVはどのように生まれたのか。アニメーション監督を務めたmaxillaの神谷、アニメ制作を手掛けたWIT STUDIOのプロデューサー完戸氏とキャラクタデザイナーの胡氏にこだわりに満ちた制作プロセスを伺いました。
中学校から好きなタイトルなら、やるしかないと
─どのような経緯で、今回のプロジェクトに参加したのでしょうか?
完戸:知り合いを通じてHelixesさんから相談を受けたのがきっかけですね。実は、僕と胡さんはもともとマジック:ザ・ギャザリングが好きで、過去のPV映像なども見て「こういう仕事できるといいね」という話をしていたんですよ。
胡:企画書とか作ってみようか、なんてことも話してましたよね。
完戸:そんな矢先に、Helixesさんから相談がきたので、胡さんも「やるしかないでしょ」と即答でしたね。少し忙しい時期ではあったのですが、こんな機会はないと思って、ぜひやらせてくださいと返事をしました。初めてのお仕事ですが、いきなりいい案件をご一緒させていただけて、すごくありがたかったです。
─コンペから参加するというのは珍しいのではないですか?
完戸:そうですね。コンペはあまり経験がなくて、決まるかどうかも分からない状態だったのですが、Helixesのみなさんがすばらしい企画書を作っていたので、これは参加するしかないなと。結果的にコンペも通過しましたし、B’zの稲葉さんが参加する楽曲まで提供していただける話にもなり、弊社としても素晴らしい事例になったと思います。
──胡さんはいつからマジック:ザ・ギャザリングのファンなのですか?
胡:第6版が出たあたりで、中学生になったくらいの頃だったかと思います。友達や兄弟と遊んでいました。その後プレイしない時期が続いていたんですけど、完戸さんをはじめとした社内のメンバーがマジック:ザ・ギャザリングで遊んでいたんですよね。それを見て、またやりたいなと思ったんです。
完戸:僕ともう1人のスタッフで、久々に遊んでみたんですよ。それを見た胡さんが話しかけてきて、実は昔プレイしていたと知って。この日がきっかけとなって、今でも社内のメンバーで定期的に遊んでいます。
──マジック:ザ・ギャザリングの魅力は何でしょうか?
胡:いろんな楽しみ方ができるところですね。競技としてはもちろん、コレクションしたり、ストーリーを楽しんだり、イラストそのものを楽しんだり。印刷されている部分に地続きに描き足す「拡張アート」という文化もあります。
完戸:僕は何よりもダイナミックかつ繊細なストーリーに魅了されています。ストーリーはおまけではなくて、しっかり作り込まれているんですよ。ストーリーがあって、シーンがあって、それがカードになって効果などにも反映されている。そういう緻密な設定がオタク心をくすぐるんですよね。
限られた時間でどのようにクオリティを高めるか
─今回のPVのアニメ制作で意識した点を教えてください。
胡:ヒロインである皇をかわいく、魅力的なキャラとして描くことです。カードとしての効果も強く、競技でもよく使われる人気キャラクターになりました。主人公の魁渡も、キャラクターとして好きになってもらえるよう、作画や描写に力を入れています。
魁渡に関しては誠実さが出ればいいなと思いながら制作しました。彼の「ずっと皇を追っかけている主人公」という設定だけを見ると、一歩間違えるとおかしな男に映ってしまいます。そうではなく、純粋な気持ちで頑張ってるんだということが、表情に出るといいなと
──なるほど。それでは、次はどのように進行したか、Helixesの神谷も交えながら話を聞いていきます。コンペが通ったあと、どこから着手したのでしょうか?
神谷:コンペが通った後は、正直バタバタしました。時間もない中で、コンテや美術ボード、各種設定資料などいろいろな準備をする必要があったのですが、スタジオの皆さんに待ってもらっていたらアニメ制作がどんどんずれ込んでしまいます。早々にWIT STUDIOさんとのミーティングを組んで、完戸さんにできることから進めましょうとアドバイスをいただきまして、字コンテが固まる前から先行して胡さんにキャラクターデザインに着手してもらったという流れです。
完戸:そうは言っても、神谷さんは時間がない中で、作画のスケジュールも考慮してイメージボードを作ったり、方向性を示してくれましたよね。初動の段階で、方向性を提示してくれたので、我々も何から手を付けていけばいいか判断が付きやすかったんです。そうした舵取り、カロリーコントロールが全体のクオリティアップにも繋がったのかと思います。
─キャラクターデザインからスタートしたということですが、ここは胡さんを中心に進めていったのでしょうか。
胡:そうです。やるということが決まってから、すぐに取り掛からないと間に合わないスケジュールでしたので、コンテが仕上がり次第作画に進めるよう、スピード感を持ってキャラクターデザインを進めていきました。キャラクターデザインは経験が豊富なわけではないのですが、自分自身のステップアップのチャンスだと捉えて、持てる力を出し切った感覚です。
神谷:胡さんのキャラクターデザインはクライアントのウィザーズからの評判も良く、先方のチームと一緒にギタクシアスのデザインを確認したときは非常に盛り上がりましたよ。おかげでスムーズなスタートを切ることができました。
─ウィザーズが持つ原案資料をベースに、PV用に新たに設定資料を作ったと聞いています。
神谷:先ほど完戸さんも言っていたように、マジック:ザ・ギャザリングには緻密な世界観、ストーリーやキャラクター設定があって、膨大な原案資料をウィザーズから事前に共有されていました。ただ、その原案資料の全てがアニメ制作に必要なわけではないので、今回の趣旨に沿った情報だけをまとめて、再構築する必要があったんです。それに加え、キャラクターの衣装や建造物など、アニメ用に新たに設定が必要な部分もありました。こちらが実現したいストーリーに必要な新たな設定を考えながら、原案資料から必要な情報を取りまとめ、設定資料として作っていったんです。
クオリティを左右するラストカットへのこだわり
─大変だった工程、こだわりの工程など教えてください。
胡:最後の皇が消えてしまうカットと、魁渡の締めのカット。ここを納得のいく形で抑えられれば、このPVは勝てるだろうとは思っていました。
─最後、皇が消え、魁渡が正面を向くシーンですね。
胡:皇が消えるカットは彼女が心情を吐露する場面で、バストアップであるということもあって、絶対に外せません。力のあるカットにしたいと思いつつも、なかなかうまくいかなくて。自分で手を入れながら、なんとか納得のいく形に仕上げました。
─神谷さんは、この最後のカットについてはどう感じていますか?
神谷:ウィザーズも、皇というキャラクターをいかに魅力的に描くかを非常に重要視していました。本作は全体を通して、用意された設定の範囲でかなり自由度高く表現させていただいたんですけど、皇に関してはラストシーンも含め多くフィードバックをいただいていたんです。それもあって、最後の皇の寄りのカットもそうですし、冒頭のバストアップや途中の花火を見る横顔、戦闘中の顔の寄りなどは撮影にも力を入れました。カット編にしても、楽曲と合わせて意図して皇の寄りが印象に残りやすいような展開を設計しています。
完戸:僕からもひとつこだわりを言うとすると、ジン=ギタクシアスと、テゼレットという、敵側二人。それから、途中で出てくる香醍という黄金の竜。このあたりの胡さんのキャラクターの描き込みがすごいんですよ。途中で映像を止めてよく見てほしいです。胡さんじゃないと描けないという線になっていると思いますね。原画展とか開いて、多くの人に見てほしいぐらいです。
胡:テゼレットやギタクシアスは金属の生命体という設定からして、線がすごく多くなるんですね。腕やお腹の金属部分にはハイライトも多く入っています。どうすれば金属らしい影を上手く描けるか考えながら、作画にはかなり時間をかけました。
神谷:背景美術にもぜひ注目してほしいですね。今回の美術は背景会社のととにゃんさんに描いていただいているのですが、時間がない中で、「神河」の世界観を丁寧に再現してくれました。今回ウィザーズからは水を綺麗に見せたいというリクエストがあったりと、日本的な美しさの表現が求められていたので、美術と撮影には気を配って絵作りをしていきました。
完戸:撮影もすばらしかったです。神谷さんとグラフィニカさんに仕上げを担っていただいたのですが、作品をもうひとつ上のレベルにまで引き上げていただいたように感じます。実際に納品された映像を見て、これはすごいと我々の中でもざわついたんですよ。
神谷:撮影は僕としても自信のあるところですが、今回はグラフィニカさんにだいぶ助けられました。歴史あるマジックのトレーラー映像のひとつとして、劇場版のようなシネマティックなルックを実現するためにも、色・光・被写界深度・カメラワークは細かく自分で調整したくて、なるべく撮影のための時間を確保したいと前々から完戸さんに相談していました。決して余裕のあるスケジュールではありませんでしたが、ベースとなるエフェクトなどをしっかりとグラフィニカさんに作っていただいたおかげで、短期間で想定のラインまで仕上げることができました。
胡:それぞれに特化した人たちの技術が集積されて、最終的にとても高いクオリティのアニメに仕上がりましたよね。作画、美術背景、色彩や撮影……各スタッフを神谷さんにうまく舵取りしていただきました。
軸をぶらさず、クオリティをコントロールするイメージ共有
─神谷さんは実写ミュージックビデオのディレクターを担うことも多いですが、そうした経験が活かされたのでしょうか。
神谷:そうですね、僕自身、まだまだ何か語れるような人間ではありませんが、映像ディレクターとして幅広い領域をコントロールしてきた知識と経験は活かせた部分はあると思います。制作の全行程や領域に目を配るのが監督業だと思うので、自分が特別というわけではないと思いますが……。
完戸:いやいや、神谷さんみたいにイメージボードなんかを自分の手で作って方向性を示しながら、全体をディレクションできる人はなかなかいないですよ。ご自身が絵素材に触れられるというのも強みじゃないですかね。
胡:指示は出すけど、素材まで触る監督はなかなかいませんからね。
完戸:振り返ってみると、時間のない中でこの仕上がりにまとめられたのは、神谷さんが初動から明確なビジョンを持っていただいていたからだと思います。軸となるイメージがあったことによって、各セクションの人も迷いなく力を発揮できました。
神谷:ただでさえアニメ業界で育ってない人間が監督をするわけですから、具体的なイメージの共有を怠ると齟齬が生まれるのは明白でした。用いる言葉ひとつとっても、身を置く業界次第で意味が変わってしまうこともあります。だからビジュアルでのコミュニケーションというのはいつも以上に意識していた部分でもありますね。
完戸:そこの頑張りは、我々にも伝わっていましたよ。この仕事を通じて、神谷さんのことが好きになりました(笑)。
神谷:照れますね、ありがとうございます(笑)。さておき、本作については制作チーム全体で作品へのモチベーションが高かったことが一番大きかったと思います。結果として、今回のPVは歴代の中でもトップクラスの視聴数につながっているそうです。国内外でたくさんの賞賛コメントがあり、クライアントからも高い評価をいただきました。
完戸:それはうれしいですね。
神谷:マジック:ザ・ギャザリングにはしっかりとしたストーリーがありますから、今回のような作画アニメーションで物語を表現してほしいというファンの声も多いようです。今後も、もしかしたらアニメ化の企画があるかもしれませんので、ぜひまたWIT STUDIOさんとご一緒できるとうれしいですね。
完戸:こちらこそ、素敵なプロジェクトでご一緒できていい経験ができました。また機会があれば、ぜひ一緒に仕事をしましょう。
▼Profile
胡拓磨 Takuma Ebisu
WIT STUDIO所属アニメーター。
「Vivy -Fluorite Eye’s Song」総作画監督、「Pokémon Evolutions」第6話 キャラクターデザイン・作画監督を担当。
完戸 翔洋 Syoyo Shishido
WIT STUDIOのアニメーションプロデューサー。
「ヴァンパイア・イン・ザ・ガーデン」、「おにぱん!」のアニメーションプロデューサーを担当。
神谷雄貴 Yuki Kamiya
maxilla所属の映像ディレクター、デザイナー、イラストレーター。http://uki.jp/
【関連記事】
-
Speaker
Takuya Ebisu
Syouyou Shishido
Yuki Kamiya -
Interview & Text
Kentaro Okumura
-
Edit
Mami Sonokawa
Kohei Yagi
Helixesへのお問い合わせはこちら Contact