アニメ監督から楽曲プロデュースまで ─マジック:ザ・ギャザリング、アニメーショントレーラー制作の舞台裏
2022.06.09
Helixes Inc.のメンバーやそのマインドについて発信していく「Helixes.log」。
今回取り上げるのは、マジック:ザ・ギャザリングの『神河:輝ける世界』の発売にあたって制作された『神河:輝ける世界 アニメーショントレーラー』。maxillaが企画制作、アニメーションを『進撃の巨人』『王様ランキング』などを手掛けるWIT STUDIO、そして楽曲にTK from 凛として時雨が稲葉浩志をゲストヴォーカルに招いた新曲「Scratch (with 稲葉浩志)」が起用されるなど、異色かつハイクオリティな映像が大きな話題を呼んでいます。
本件の制作について、プロデューサー・田中、音楽プロデューサー・鈴木、ディレクター・松野、アニメーション監督・神谷の4人に話を聞きました。
壮大な世界設定の中から抽出したキーワード「絆」
─まずは概要から教えてください。
田中:2月18日に、日本をモチーフにした『神河:輝ける世界』を発売するにあたり、プロモーションアニメを制作しました。maxillaが企画・制作、アニメーションはWIT STUDIOさんにご参加いただいています。本件はコンペだったのですが、その時点で「日本の伝統とサイバーパンクがかけ合わさったような映像を作ってほしい」といった要望があって、プレゼンではその世界観をできる限り忠実に表現しようと心がけました。
松野:これまでのマジック:ザ・ギャザリングのシネマティックトレーラーにはリアルな戦闘シーンが多く盛り込まれていましたが、今回は日本が舞台。従来のトーンから大きく変更して、ジャパニメーションを全面に押し出した映像にしたいという要件から最適なプロットを考えていきました。
──どのような企画を提案したのでしょうか。
松野:ストーリーの原案は僕が作りました。クライアントのウィザーズ・オブ・ザ・コーストさんから提供された設定資料はかなり作り込まれていたのですが、今回の映像の尺ではそのすべては表現できないので、調整を加える必要があって。そこで考えたのが、主人公とヒロインの絆にフォーカスしたストーリーを構築する、ということでした。設定資料の中から取り入れられそうなストーリーを選びつつ「絆」が印象に残るようシーンを肉付けして、一つのまとまった映像企画として作り上げていったんです。
─絆にフォーカスしたのはなぜですか?
松野:要件にもあった通り、ファンタジーにおける戦闘の派手さではなく、日本的な「儚さ」にフォーカスするためです。もともとマジック:ザ・ギャザリングには多元宇宙という世界設定があって、様々な次元の宇宙を行き来する能力を持つキャラクターがいます。自らの意思とは無関係に、異次元の宇宙にワープしてしまうヒロインを、幼馴染である主人公がなんとかして自分のいる次元に留まらせようとする──。こうした設定をベースに、幼い頃からの二人の関係を描きつつ、消えてしまったり、また現れたりと運命に翻弄されながらつながろうとする二人の「絆」を中心にストーリーを組み立てていきました。
タイミングに恵まれた、異色なコラボ楽曲との出会い
─今回、使われている楽曲 TK from 凛として時雨「Scratch(with 稲葉浩志)」を起用した経緯を教えてください。
鈴木:凛として時雨のチームとはMVを担当したことがきっかけで以前からつながりがあり、今回の音楽要件を伺った際に、すぐに候補として思い浮かびました。コンペに通過したタイミングで相談してみると、ちょうどTK from 凛として時雨(TKさんのソロ名義)とB’zの稲葉浩志さんのコラボの話が進んでいるところで。デモ曲を聴かせてもらったところ、アニメーショントレーラーのイメージにぴったりと合う、素晴らしいロックバラードだったんです。こんな巡り合わせはないと、すぐに本格的な調整に動きました。
もともと「これまで本作に接点がなかった層にもアプローチしたい」という要件があったのですが、このコラボをクライアントに提案したところ、アーティストのバリューとしても、話題性としても申し分ないと承諾を得ることができました。その後、アーティストサイドからも最終的なOKをいただき、今回の楽曲起用が決まったという流れです。タイミングにすごく恵まれていたなと思います。
──こういった案件で気になるのが、映像と楽曲をどのように進行するのか、という点なのですが。
鈴木:楽曲起用が決まった時点でアニメの制作はけっこう進んでいて、楽曲や歌詞も7、8割はできていました。曲調が合うのは分かっていたので不安はありませんでしたが、映像尺に合わせて楽曲のショートバージョンをつくる必要もあり、この条件下で「カット割りと楽曲の展開を合わせる」というレベルを目指すのはかなり難易度が高いのでは、とチーム内で話していたんです。
ただ、TKさんは普段からご自身で映像制作をされていることもあって映像への理解も深く、我々が求めている展開に上手く調整してくれただけでなく、ストーリーに寄り添うよう歌詞の一部も調整してくれました。その結果、書き下ろしなのではと思うほど、音楽と映像がマッチした作品に仕上がりました。
200ページを超える設定資料を独自に用意
─アニメーション制作の流れを教えてください。
神谷:まず松野が原作ストーリーを元に本作PVの字コンテを作りつつ、すでにキャラクター原案は存在していたので、並行してアニメ用のキャラクターデザイン作業を進行していきました。キャラクターデザインを担当していただいた胡 拓磨さんに、主人公やヒロインなど、確実に登場するキャラクターから順に、どんどん描き起こしてもらいました。そして字コンテがあがり次第、僕がバトンを受け取って絵コンテ作業に入りつつ、同時にアニメ用の設定資料を作り、あとはWIT STUDIOさんと実制作を行っていったという流れです。
─クライアントのものとは別の設定資料ですよね?
神谷:そうですね。WIT STUDIOさん側に、どういう世界観のどういう場所で、どんなキャラクターたちかを説明するための、アニメーション用の資料です。クライアントの原作資料は英語で、かつ今回のアニメ制作には関係のない情報も膨大にありましたし、そもそも原作になく、アニメオリジナルで考えなければならない要素もあったので、情報を整理して作り直す必要がありました。キャラクターまわりはほとんど原案資料を整理しなおす作業だけで済んだのですが、舞台背景や小物に関しては資料が存在せず、ゼロから用意しなければならないものも多くて。とくに背景美術の設定作成には時間がかかりましたね。諸々合わせると、アニメ用の設定資料だけで200ページを超えていたと思います。
──それだけでも膨大な作業ですね。
神谷:進行管理で入っていた弊社の中瀬にも助けてもらいながら進めました。スケジュールの都合で美術監督さんに美術ボードを用意していただく時間もなかったので、打合せで各カットを担当する作画さんから「ここはどういう場所ですか?」「このキャラは何を持っているんですか?」といった質問をいただきつつ、都度問い合わせにあわせた補足資料を追加していきました。
美術設定のCG資料やイメージボードを作打ちの後から用意するなど、正直ドタバタとした進行でしたね。
アニメーションの監督から楽曲プロデュースまで一社で完結させる
─今回のプロジェクトを振り返ると、Helixesのどのような強みが活かされたと思いますか?
田中:今日取材を受けているこのメンバーの中で役割分担がしっかりなされていて、スムーズに進んだかなと思っています。僕がプロデューサー、松野が企画やディレクション、鈴木が音楽プロデューサー、神谷がアニメーション監督…とそれぞれの強みを発揮しながら取り組めたかな、と。それぞれに強い領域を持ちながら、チームとしてプロジェクトを動かせるのはHelixiesの強みではあると思います。
鈴木:今回ぐらいの規模のプロジェクトだと、数社が協力して動かしていくのが一般的だと思うんですが、Helixiesの場合はそれぞれの領域に精通したメンバーがいるから、一つのチームで完結できるんですよね。
神谷:代理店を経由して企画にあったアニメーション制作に強いディレクターとスタジオを探したり、音楽制作会社に相談してアーティストの提案をしてもらったり、楽曲制作を外注したり…と何社かをまたぐのが普通です。
田中:それと、CG制作はディレクター職の二子石やチャールズが、エフェクトアニメーションはプロデューサー職の園川が納品ギリギリまで対応してくれて。こういった細かい部分も社内のメンバーでまかなえるのは素晴らしいと思います。役職の枠組みを越えたスキルを持ち合わせているのも強みですね。
神谷:WIT STUDIOさんとも一緒に仕事ができて光栄でした。タイトなスケジュールの中、決して規模も小さくないプロジェクトを、『王様ランキング』などのアニメ放送と同時進行で手掛けていただけて……レギュラー放送を抱えながら、こうしたプロジェクトを行うのはかなり体力を使うと思うのですが、本当に運良く引き受けていただけて、非常にタイミングに恵まれたなと思いました。
鈴木:WIT STUDIOさんが無理だったら、コンペには参加できないかな、って話もしていたんですよ。
田中:そう。いざ通ったとしてアニメーションの制作会社が見つけられない、となるのはマズいので。今回は楽曲提供していただいたTKさん、稲葉浩志さんも、アニメ制作を手掛けてくれたWIT STUDIOさんも奇跡的なタイミングというのはありましたね。ただ、そうした奇跡をたぐりよせるのは、普段からメンバーがそれぞれの領域でつながりを作ったり、実績を積み重ねてきた結果でもあるのかな、と思います。
鈴木:これまで作ってきた人とのつながりが、こういう時に活きてくるのだなと実感しました。20代のときに色んな人と飲んでよかったな、と……(笑)。
松野:かなり幅広い領域を1社で完結できることの証明にもなったので、いいモデルケースにしていきたいですね。
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Speaker
Takahito Matsuno
Yuki Kamiya
Seiya Suzuki
Daichi Tanaka -
Interview & Text
Kentaro Okumura
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Edit
Mami Sonokawa
Kohei Yagi
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