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社内対談「俺たちのベストムービー5選 in 2021」

2021.12.31

Helixes Inc.のメンバーやそのマインドについて発信していく「Helixes.log」。

今回はいつもと趣向を変えた特別編として、プロデューサーの田中大地、ディレクターの田中清健の兄弟が、2021年11月までに公開された映画の中から、とくにオススメの作品を5作選出。社内でも随一の映画ファンとして、各々がどんな部分に着目し、惚れ込んだのかを徹底討論していただきました。

1作目『ミッチェル家とマシンの反乱』

大地 じゃあ早速あらすじから……といっても、あらすじはめちゃくちゃ簡単なんだよね。主人公は大学進学を控えた女の子。AIが反乱を起こした世界の中で、バラバラだった風変わりな家族が一致団結していく姿を描いてく、というストーリーです。家族愛のお話だけど、マイノリティー(変わり者)を肯定する話でもある。

清健 この映画、製作がフィル・ロードとクリストファー・ミラーでね。

大地 そうそう、『LEGOムービー』『21ジャンプストリート』『くもりときどきミートボール』、最近だと『スパイダーマン:スパイダーバース』を作ったふたりで、〈ロード・ミラー・プロダクション〉という自分たちの会社で製作してる。本作はもともと劇場公開予定のものだったんだけど、資金的な問題でNetflixに売らざるを得なくなったみたいですね。

清健 大地はこの作品のどこが良かった?

大地 3つぐらいあって、まず面白さに徹していましたよね。2時間ずーっとふざけてた。彼らの映画はいつもそうなんですけど、なんにも考えなくても見ていて楽しめるいいところが良い。

僕も清健さんも『カートゥーン・ネットワーク』とか『シンプソンズ』、『カウ&チキン』、『ルーニー・テューンズ』のようなアメリカ的なユーモア、ギャグセンスのアニメを観て育ったんですけど、全編にそのセンスが詰まっていて最高でした。なんとなく「劇場版クレヨンしんちゃん」の感じもして。

清健 それだよね。まさにハリウッド版クレヨンしんちゃん。

大地 あと、カット割りや編集が完璧なんですよね。アングルの決め方、台詞の出し方、ずっと気持ちよく編集が繋がって、テンポも落ちることがなかったなって。

アニメって、決め打ちじゃないですか。実写のように、実際の尺より長めに撮っておいてあとで編集しよう、っていうやり方ができない。プリビズから作ってこの編集クオリティになるとは、アメリカのアニメの底力を感じました。

清健 音楽も良かった。「恋のマイアヒ」とかオヤジっぽいダサい趣味なんだけど、後半で再度かかるときにはちょっといい曲に聴こえちゃう、みたいなところとかうまいなと。

大地 あと1つ注目したいのは、フィル・ロードとクリストファー・ミラーにとっては『スパイダーバース』で評価を得た「3Dアニメを2Dっぽく見せる」という技術の次をやろうとしたところ。これって、3Dのモデルを動かして、さらに上から描いてるんだよね?

清健 たぶんね。今は『スター・ウォーズ バッド・バッチ』とか『Arcane:リーグ・オブ・レジェンド』でも見られる「粘土とかペイントっぽいテクスチャー」が流行っていて、いよいよこの手法が完成形に近づいてきたって感じる。3Dアニメだけど絵を見ているようでもあって、でも質感や立体感もちゃんとあるから、不思議な感覚になった。

大地 デザインやルックもめちゃくちゃ好き。90年代の落書き風のグラフィックを3Dに落とし込むって意外と見たことなくて新鮮だった。キャラデザや全体的なデザイントーンが日本の中であまり受けなかった理由の一つなのかもしれないけど。

清健 これまでも『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』とかでカートゥーンライクな表現とかはあったけど、フェイスフィルターのようなSNSを意識した表現を、ついに映画に落とし込んできたかー!って思ったよね。こういうデザインは、僕らよりひとつ下の世代の方が共感しやすいのかもしれない。あと、個人的には、彼らがいかにマイノリティーかを押し出つけるんじゃなくて、さりげなく伝えてくるところが好きだったかな。

大地 マイノリティーであることが当たり前の感覚というか。

清健 そう。例えば、主人公は胸元にレインボーのバッチを付けてたんだけど。

大地 気づかなかった!

清健 主人公のケイティと母親が、ケイティの気になってる女の子について会話するシーンがあるんだけど「私って変かな?」ってお母さんに言うと「え、全然変じゃないよ」ってさらっと会話に盛り込んだり。主人公の弟も、人とコミュニケーションが上手く取れなかったりするんだけど、そこら辺にはまったく触れなかったり。こういうテーマが作中の要素として差し込まれる映画の中では、ここ最近で一番良かった。

大地 まぁ、そもそも僕は「負け犬たちが頑張る映画」ってだけで、満点にしてしまうけど(笑)。なんか惹かれるものがあるんだよね。

2作目『サウンド・オブ・メタル〜聞こえるということ〜』

清健 あらすじから言うと、恋人とバンドを組んでツアーを回って生計を立てているドラマーが主人公。彼はある日のライブから突然耳が聞こえなくなり、医者から回復の難しい難聴だと診断されて……っていう、めちゃくちゃシンプルな物語。それでもこの映画がすごかったのは、難聴の感覚を擬似体験できるところ。耳に低音の圧がかかったような、水の中にいるような感じなんだよね。難聴の人ってこういう風に聞こえるんだ、って教えてくれた映画でした。『グラビティ』とか『メッセージ』とかに関わった音響デザイナー、ニコラス・ベッカーのチームがサウンドデザインで関わったんだって。

大地 へー、そうなんだ。

清健 彼らは「難聴をどう伝えるか」というお題に対して、まず音響デザインから構成していったと。ただこの映画は画も素晴らしくて。35ミリフィルムで、たしか秋ごろに撮られてたはずなんだけど、フィルムの粒子の暖かみと、秋の景色の冷たさ、寂しさがマッチしてる。照明もあまり作り込まず、ドキュメンタリーライクなカメラワークで、動きも最小限に抑えてた。長いカットが難聴の状態の居心地の悪さや恐怖を強調してたなぁと。

大地 めちゃくちゃいい映画でしたね。タイトルと、主人公を演じたリズ・アーメッドに惹かれて、たしか1、2年前に観たかな。原作は『ブルー・バレンタイン』、『プレイス・ビヨンド・パインズ』のデレク・シアンフランスで、監督原案。彼の映画の主人公って、毎回細身で袖無しのTシャツを着てるんだけど、ちょっとメタラーみたいな雰囲気がめっちゃ格好いい。自然光を使って手持ちっぽく撮る画に映える。

清健 分かる。あのやさぐれ感、憧れるわ〜。

大地 衣装や全体的な映像づくり、めちゃくちゃ俺好みでした。音響にこだわった映画だから劇場じゃないとダメかなと思ったけど、ヘッドホンで聞いても、ちゃんと身体で感じられるつくりになっていた。

清健 あと、難聴者の方のシェルターに勤める先生を演じたローレン・リドルフは、生まれつき聴覚障害を持っているんだよね。観たあとに調べて知ってびっくりした。僕自身、障害を持っている役者さんを観たことがなかったし、知らなかったから。今、彼女は『エターナルズ』にも出演しています。

大地 あ、映画館で観た方がいい映画、3分だけ話していいですか? 『ゴジラVSコング』。

清健 はいはい(笑)。

3作目『ゴジラVSコング』

大地 これは「映画館で観た方がいい映画」の最高峰です。今って、スマホで凄まじい現実の映像が拡散される時代でしょ。昨年で言えばトランプ元大統領の支持者によるアメリカ議事堂襲撃事件とか、ブラック・ライブス・マターにおける一連のアクションがあって、実際に起きた凄まじい事件の映像をスマホで見ることにみんな慣れてしまった。そんな中で、映画館に人を戻すためにどうすればいいか。どうすれば勝てるか。それは、「世界で最も有名な2大でけえやつら」──つまりゴジラとキングコングを戦わせることであり、それを圧倒的な資金でもって、圧倒的映像美で魅せることなんだと。
(※補足① この後公開された『エターナルズ』ではさらにでかい奴がでました)

清健 (笑)。

大地 映画の意地っていうか。映画って「どうハッタリをかますか」っていう側面もあると思うんだけど、この映画以上のハッタリはない。地球で、あれ以上大きなものが戦うことはもうないから。

清健 たしかに。めちゃくちゃ煽りで撮っていて、画の作り方も完全に映画館向けだった。映像体験というよりも「映画館体験」っていうか。デカさを感じるのも映画館ならではだと思うし。

大地 キングコングが誕生秘話とか出てくるんですけど……そもそも、誰がキングコングの出生知りてえんだよ!っていう。という感じで、内容的には30秒で終わることなんだけど、最高でした。

清健 映画館で観ないと面白さが削がれてしまうアトラクション・ムービーって感じね。

4作目『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』

清健 単純に観ても面白いし、家で料理しながら観ても面白いタイプの映画です。狂ったビジュアルがてんこ盛りのエンタメでありながら、深掘りすると実はちゃんと意味があって。グロ描写に耐えられる人だったら、個人的には広くお勧めできる、気合いを入れなくても観れる映画かな。

大地 これって、前作(『スーサイド・スクワッド』)とは関係ない?

清健 一応続編だけど、ぶっちゃけ内容は前作と一緒。アフリカ系の凄腕ガンマンが娘を人質に取られて、ちょっとした能力を持った囚人たちが超難関ミッションに挑む……って、なーんも変わってないでしょ。ウィル・スミスじゃないってだけ(笑)。でも、主人公たちがバットマンとかキャプテン・アメリカみたいに、他のシリーズを観てなきゃ分かんない、みたいなキャラじゃなくて、謎のキャラばかりだから、シリーズで観てなくても楽しめる。

今回の監督は、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』などのジェームズ・ガン。ディズニーを追い出されたあとワーナー・ブラザーズに拾われて、好きな事やっていいよって言われたから、『大脱走』みたいな戦争アクション映画をやりたい!ということで、今回スーサイド・スクワッドを選んだって言われてる。

でも、これはただのアクションじゃなくて、今の世の中の風刺も入っていて。スーサイド・スクワッドのチームが「敵地に大量破壊兵器があるから壊しに行け」って言われるのも、イラク戦争に対するアメリカへの風刺だったり。さっきの話とも似てるけど、世の中から淘汰されてきた悪役、しかも悪い奴らというよりも世の中に適応できないポンコツたちが自己実現を果たす話なんだよね。だからか、ところどころに可愛らしさを感じる。

大地 ジェームズ・ガンはもともと〈トロマ・エンターテイメント〉っていう、お下劣制作会社で『悪魔の毒々モンスター』とかを作ってたんだけど、ディズニーに突然フックアップされて。傑作『ガーディアンズ〜』を2本撮ってイケイケだったところ、ファンから10年以上前に書いた人種差別的なジョークを指摘されて炎上して、ディズニーからクビにされてしまった。要は負け犬がフックアップされて、クビになってまた負け犬になったと。その状態で作った映画って観ると、めちゃくちゃ面白い。劇中、唐突に鳥が死ぬシーンがあるんですけど、あれは「Twitterぶっころす」っていう意味だと思う。

清健 やっぱTwitterなんだ。超可哀想とか思ってたけどそういう事か。

大地 お下劣に偏ってますけど、僕は大好きな映画です。

5作目『最後の決闘裁判』

大地 じゃあ、お下劣つながりで…(笑)。

清健 いやこの映画、お下劣の極みよね。『決闘裁判 世界を変えた法廷スキャンダル』っていう小説の映画化で、実際にあった話。このあたりの時代背景は大地が得意でしょ。

大地 100年戦争の頃かな。昔は決着がつかない裁判を、最後は神が決めるということで、決闘をして勝った方が(裁判に)勝ったんです。

あらすじを簡単に説明すると……これは説明が難しいから、引用します。「14世紀、フランス。とある騎士の妻が、従騎士に無理やり犯されたと被害を訴え出る。しかし、その事件の目撃者はおらず、無実を訴える従騎士と夫の騎士の主張は動かなかった。そこで、両者は真実をかけた決闘裁判に臨むことになる。神が正義のものに勝利をもたらすと信じられているその解決方法は、夫が負ければ妻も偽証の罪で処刑されるという過酷なものだった──」

この映画は『羅生門』のように、3人の語り部によって物語られるんです。第1幕は力自慢の男。俺は力が強いから決闘で勝負して、裁いてやろうっていう視点。第2幕はエリートの男。彼の視点で見ると、自分は強姦なんてしていないし、なんだったらその女性とは遠くで見つめ合った時に喋ったり、いい感じでもあったと。そして第3幕はその被害女性の語り、という形です。どんどんネタバレになりそうなんですが、僕は第三幕の女性の語りが真実であって、男性2人は、被告側の視点でしかないって気持ちで、リドリー・スコット御大は作ったんだと受け取りました。

第1幕、第2幕では男2人に対して、あいつは可愛そうだなとか、こいつも嫌なやつだなとか、仕事できないなとか、やっぱりプレイボーイだなとか、いろんな感情にさせられるんだけど、第3幕でそもそも彼らに対してそういう視点で観ていたことが間違いだったと気付かされる。

清健 まぁ、総じて男はクソだなーって思ったかな。

大地 感情移入を上手く使ってる映画だと思う。男性主体の世界では、女性もマイノリティーなわけで。このマイノリティーという部分の伝え方が見事だった。

清健 どっちの男がこの女性にすり寄り添ってきたかというのは、究極的には関係なくて、そもそもその「関係の押しつけ」が性暴力的であって……って話だと解釈しているんだけど、これ、話ムズッ!

大地 いやほんとに(笑)。自分の考えをどう伝えたらいいのか……。でも、単純に被害者と被告者の目線の違いってことだと思う。

清健 語るべき事が多すぎるんよね。女性に降りかかるあらゆる差別的状況を、ただドキュメンタリー的に映し出すだけじゃなくて、映画のフレームの中でどう構成するか、という点でも上手いなって思う。脚本の執筆は男だけだと難しいということで、1幕目をマット・デイモン、2幕目をベン・アフレック、3幕目はニコール・ホロフセナーという女性が書いています。

大地 この人が全体の核になったっぽいよね。マット・デイモンとベン・アフレックは『グッド・ウィル・ハンティング』からのコンビでもあり、彼らもまた告発をされた身でもあるので。

清健 そう。今、現実社会の女性たちが抱えている問題を、この優秀な3人が1300年代の決闘裁判に置き換えて、それをリドリー・スコットがヤバい映像美で描くというね。

大地 これはもう、今日紹介した中でも一番観た方がいい映画です。今までもリドリー・スコット御大は物語でヒーローを描くときに、決断力がある女性を描いてきたんですよね。いつまでも健康でいて、『プロメテウス』ずっと作っていて欲しいな。


  • Speaker

    Seiken Tanaka
    Daichi Tanaka

  • Interview & Text

    Kentaro Okumura

  • Edit

    Mami Sonokawa
    Kohei Yagi
    Shiho Nakase

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