社員インタビュー「maxillaのディレクターが選ぶ、今年感銘を受けた映像作品」
2020.12.30
Helixes Inc.のメンバーやそのマインドについて発信していく「Helixes.log」。
今回は、株式会社Helixesのクリエイティブチームであるmaxillaのディレクターである渡邊、阿保、松野の3名が、2020年に観た映像作品の中で特に心が動いた数本を選出。その選出理由と、映像作品への思いを語らいました。
NIKE – “動かしつづける。自分を。未来を。”
渡邊 まず、影響力のある大きなブランドが社会問題にフォーカスした広告を作ることは、すごくいいことだと思っていて。NIKEは、アメリカンフットボール選手のキャパニックさんが国歌斉唱で膝をついて歌わなかった時にも、彼を広告に起用していましたよね。人種やソーシャルマイノリティなどの社会問題は、日本の広告ではまだまだ取り上げられづらい。そんな中、こうした部分をピックアップしたのは面白いなと思って選びました。
Twitterでは「何でこんなに日本人を責めるの?」といったようなネガティブな反応をよく見かけます。でもこの広告でNIKEは日本人を責めているのではなく「差別が起きていて、苦しんでいる人たちがいるという事実に目を背けないでほしい」と伝えたいんだと思います。差別を受けている人に対してへの応援とも取れる。そもそも、日本にレイシズムがある/ないについては、被害を受けている側の立場の人が決めることですしね。いずれにしろ、こうやって「(この広告の意味が)分からない!」とか「(レイシズムが)ない!」と言うこと自体も、広く見れば良いこと。議論が生まれることで物事が変化、進化していくんじゃないでしょうか。
松野 ナベちゃん(渡邊)の言っている通り、議論が生まれることにこの広告の意義があって、反発している人は「共感できない」ことに対して反発しているような気がします。僕もこの広告は好きですが、一方で賛否両論を生む内容であることも理解できます。
KOHH – “ひとつ”
渡邊 HAVIT ART STUDIOというディレクターが作ったKOHHの「ひとつ」のミュージックビデオです。見た目やルック感などビジュアル推しで選びました。ラッパーのMVでは自分が出演したり、街中でクルーと一緒にというパターンが多い中、FIXの絵を多用してストイックなミュージックビデオに仕上げている点がすごくいいなと思います。
背景に対して人物が1人。要素はそぎ落とされています。でもその人物の行動や技術が、今回のテーマでもある「生死」の意味合いを効果的に伝えている。カメラの動きはなく、カットの間合いもうまくまとめて成立させているのだろうと思うと、すごいですね。たとえばお箸で骨を運んでいるシーンなんて、もうパンチでしかない。ここまで大胆に直球を入れて来られると、エモーショナルの方が強くなりますね。火葬後の骨を拾うシーンがあることによって、そこまで散乱していたイメージが「死」という一つのテーマに繋ぎ止められている。この演出は、視聴者の理解度を上げるという点でも効いていると思います。
阿保 このビデオが出たのはKOHHの引退が決まった後だったと思うんですけど、彼のキャリア的タイミングとも親和性があります。最後に相応しく、絶妙だった。それと、このビデオは監督のHAVIT ART STUDIOの方から作りたいとKOHHさん側に依頼したようで。それほど曲に感銘を受けたのかなとか、もともとKOHHのビデオを撮っていたHAVITだからこそ生まれた作品なのかなとか思うと、なんだかすごくエモいなって。
あと、現代舞踏家の田中泯さんが出ていますね。僕、田中さんがものすごく好きなんですよ。田中さんは時代劇なんかにもよく出てらっしゃいますが、本業は舞踏家。彼がMVに登場するとやっぱりめちゃくちゃパンチがある。人の苦しみが「動き」だけでここまで表現出来るんだと、ひしひしと感じました。
DPR LIVE – “Is Anybody Out There? (OFFICIAL TEASER)”
渡邊 韓国のクリエイティブ・ユニットのDPR LIVEのミュージックビデオです。K-POPのMVというと、女の子か男の子が踊っているようなものが多い。そんな中、ストーリー性を持たせつつ、大きなバジェットを使った攻めたミュージックビデオを作っているのは面白いな、ということでチョイスしました。あと正直、こういうのがやりたいなー!と思う気持ちが大いにある(笑)。予算があると、要素を精査しきれずに(盛り込んでしまって)ゴチャゴチャしがちですが、彼らのクリエイティブには特に美術セットに余計なものがありません。
松野 僕も同じくDPRから「DPR IAN – So Beautiful (OFFICIAL M/V)」を選びました。DPRは屋内なのに雨が降っている絵づくりや、ロケーションが変わるときのトランジションなど、フックを作るのがうまい。それとこのMVの中で、DPR IANが途轍もなく高速で回転するんです(笑)。人間のフィジカルとしての可能性を感じたのも選んだ理由ですね。
EVANGELION 超•現實 – “3D CG Tribute Short Film”
阿保 OPPOという中国携帯電話会社の、エヴァンゲリオンとコラボしたスマートホンのプロモーションビデオです。CGでエヴァを完全再現していて、今年観た中ではとびきり超ハイパーだなと思って選びました。監督のSOMEI 晟は、OPPOの映像をずっと担当してきた人で、毎回CGのクオリティがめちゃくちゃ高い。編集もアニメーションも気持ちがいいんです。
昔、Ash Thorpが制作した「AWAKEN AKIRA」という作品があって。原作のアニメをCGに落とし込んでいて、この作品に近いものがあるなと感じていたんですが、調べてみると関わっているCGデザイナーが一緒で、なるほどなと思いました。
それからこの映像の最後に流れる、原作アニメとCGとの比較動画を観るとエヴァ好きとしても、庵野監督好きとしても、やっぱりすごい。アニメの構図って、実写やCGに起こすと違和感が出がちですが、庵野監督作品は説得力のあるものが多く、違和感がないんですよね。脚色をせず再現を徹底することで、原作への最大限のリスペクトを感じさせる作品です。
Future Islands – “For Sure (Official Video)”
阿保 この作品はCGならではの演出がたくさん盛り込まれていてクオリティも高いんですが、本編よりも先にメイキング映像を見つけて。
メイキングでは、1人の外国人男性が、自宅のようなところでゲームコントローラーを使って車を操作していたんです。ゲームコントローラーを使ってアニメーションを操作する手法は、車のCGを作るときにも使うらしくて。このメイキングを見た時点でやばいなと思って、本編もすぐに見ました。
コロナ禍で色んな制限がある中、少人数でここまでのクオリティを出せるんだって衝撃を受けましたね。内容も飽きずに見られるし、少人数でここまでのクオリティを出せる。それじゃあ、今後コロナの収束後にはどうなっちゃうんだろうというワクワク感もあって、僕はすごくいい作品だと思いました。
コロナの影響で撮影せずに作るCG作品の需要が高まっているので、今後もこういったCG作品は増えそうです。
The Lumineers – “Gloria”
松野 これは最近Vimeoで偶然みつけたミュージックビデオです。内容がとにかく良かったので選びました。人間関係のすれ違いや、悪癖で、物事が悪い方向に進んでいく様子を描く中で演出の付け方とカメラワークがいいんですよね。構成がシンプルでも振り切った演出やカメラワークにするだけで、こんなに見違える作品になるんだなと。1カットごとに念入りに構図やカット編集が練られていて、全体を通してかなりレベルの高いことをやっていると思います。
普通だったら共感できないような異常な行為も、これだけ過剰な演出で提示されると、妙に納得してしまう。序盤のカメラワークが最高で、子どもを抱えながらウォッカを飲み干す女の人に、すごい勢いでカメラが寄って行く。それを4方向から撮っていて、狂ってるとしか思えない(笑)。ギャグにも見えるんですが、そのあとは急に静かになったりもして。酒を飲んで、子どもの顔をじっと見たあとに薬を飲むまでの間の取り方、そこに予定調和のように現れる旦那……見せるべき間はしっかり見せるけど、物語的に余計なものはあまり入れないところがいいですね。
次のシーンに切り変わる時に家からドローンで思い切り引いて、車が駆け抜けるという見せ方も、家のシーンを挟むことで違う日であることがすぐに分かるし、カットの収め方もとても分かりやすいですよね。途中のHS(ハイスピード)になる前の、瓶を投げるシーンの音ハメも良い(笑)。こういう細かいギミックやたくさんのアイデアをスマートに、一本にまとめ上げていると思います。
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Speaker
Takahito Matsuno
Tetsuro Abo
Masaki Watanabe -
Interview & Text
Kentaro Okumura
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Edit
Mami Sonokawa
Kohei Yagi
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