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AAAMYYY × maxilla鈴木「ブランドメッセージと作家性を両立させるサウンドクリエイティブ」

2020.06.29

Helixes Inc.のメンバーやそのマインドについて発信していく「Helixes.log」。

今回は、Tempalayのメンバーでありソロとしても活動するAAAMYYYさんと、Helixesのプロデューサー・鈴木聖也の対談をお送りします。

AAAMYYYさんには、Helixesのクリエイティブチームであるmaxillaが企画・制作したSUUMOの特別映像「未来に寄り添う部屋探し」にて、主題歌を提供いただきました。「HOME」と題されたその楽曲は、カルチャーメディア等でも話題となり、5月13日におよそ1年3ヶ月ぶりのシングルとしてもリリースされています。

「ブランドのメッセージ」と「アーティストの作家性」という、一見相反するようにも見える要素を両立させたクリエイティブには、何が必要なのでしょうか。本プロジェクトを進めた二人の対話から探ります。

映像の特性から導き出した厳密な楽曲構造

ー鈴木さんは、Helixesで映像のプロデュース以外にも、音楽プロデューサーとして多くの広告案件に関わってらっしゃいます。「音楽のプロデュース」とは、具体的にどのような内容のお仕事なのでしょうか。

鈴木聖也(以下、鈴木) 一言で音楽のプロデュースといっても色々な仕事があります。僕の場合はクライアントの要望に沿って、広告の映像やイベント、映画のサントラなど、さまざまなアウトプットの形に合わせて楽曲を制作しています。オリジナルの楽曲を作る場合もあれば、イメージに合うものを既存の曲から提案することもあります。

業務の内容は楽曲やアーティストの提案に始まり、事務所やアーティストとの制作におけるやりとり、楽曲の具体的なディレクション、スケジュールと予算の管理。また、既存の楽曲を使用する場合は使用許諾や版権の処理など、広範囲に及びます。

ー今回はmaxillaが制作したSUUMOのCM「未来に寄り添う部屋探し」のバックストーリーを伺いたいと思っています。このCMにはAAAMYYYさんが楽曲を提供していますが、鈴木さんがAAAMYYYさんが適任だと思った背景を教えてください。

鈴木 ヒアリングを続けてブレイクダウンした結果、見えてきた楽曲への要件は2つでした。まず「卒業や入学という『別れや出会いの季節』に、SUUMOが提案するお家(賃貸)のあり方」というテーマに合う、物語性のあるオリジナル楽曲を作ること。もう一つは、PRの観点でより多くの方に知ってもらうために、アーティストの力を借りて話題作りをすること。

SUUMO(スーモ) 「未来に寄り添う部屋探し

この要素を満たす人を考えたところ、浮かんできたのはAAAMYYYさんの音楽でした。もともと好きでよく聴いていたんですが、メロディーや歌声に郷愁を感じることがよくあって。それで、彼女ならテーマをしっかり表現してくれるんじゃないかなと思い依頼させていただきました。すごく注目されているアーティストなので話題性においてもバッチリだし、個人的にいつかお仕事してみたかった、という気持ちもありました。

AAAMYYY(以下、A) 最初、渋谷の喫茶店でお茶をしましたよね。その日がほぼ初対面だったのですが、コーヒーを飲みながら、なぜ私に依頼してくれたのかを熱心に話してくれたのを覚えています。熱い人だなぁって。

鈴木 (笑)

A その打ち合わせで「主人公は3人の仲良しの女の子で、もともとはルームシェアをする予定だったが、あることがきっかけで一緒に住めないことがわかる。家を探していくなかで、3人の絆が深まる」という設定やシナリオを教えてくれました。よく覚えているのは、曲の長さや細かい構成まで教えてくれたこと。「長さは1分ほど。頭のフックがあって、イントロが8小節くらい、Aメロ8小節、サビ8小節です」と、BPMや展開もかなり具体的でした。

SUUMO CM:場面写真

ー鈴木さんは普段からそこまで細かく指定されるんですか?

鈴木 CMなので、映像の長さや曲の使い所が見定められますし、ストーリーの盛り上がる部分も決まっていたので、あらかじめ楽曲の構成やテンポ、展開を用意しました。もちろんアーティストに自由に作ってもらうこともありますが、今回は細かく指定することで、より精度の高いものが作れると判断しました。

A そのおかげでめちゃくちゃ作りやすかったです。「例えばこの曲のこのベルの感じと、アコースティックギターの感じ。ビートは要らなくて、歌はAAAMYYYさんの自由にしてほしい」と明確にイメージを教えてもらった。メインとなるギターのコードから考えて、あとでベルの音で雰囲気を作って、歌入れという、割とシンプルな工程で。初稿で歌詞もほぼ入れてたんじゃないかな。

ーいつも初稿からかなり詰めて提出されるんですか?

A 私はいつも、初稿の段階で約9割完成しています。

鈴木 作る人によるんですけど、僕の経験上だと、最初からガッツリ作ってくれる人が多いです。クライアントも、デモの段階で完成度が高いとイメージにあっているかどうかの判断がしやすい。最近は、最初からかなり完成していて「残りは歌とギターだけ録り直します」みたいな進め方が多いかなと。

ーどのくらいの期間で制作したのですか?

鈴木 2週間もないくらいの、タイトな期間でしたね。

A でも、それが良かったんだと思います。私、夏休みの宿題を追い詰められて、最後にやるタイプなので。

ーギターにはMONO NO AWARE の加藤成順さんが参加されていますね。

鈴木 AAAMYYYさんが自宅でギターを弾いてくれた最初のトラックをあげてくれた時に「加藤成順さんにギター(の演奏を)を頼みたい」って提案してくれたんです。彼に弾いてもらって、差し替えたいと。

A 私は当時ギターが本当に下手で、コードを一気に弾けなくって。だからデモトラックでは上に1本だけの弦、下の3本だけの弦みたいに分けて録っていたんですよ。

鈴木 もともとしっかり弾くというよりは、パッとギターを手にとってポロポロと弾くような音色を想像しているとAAAMYYYさんに伝えていたので、狙ってくれたのかと思っていました。

A いや、「これで自分で弾くのはマズイ」と思って、マネージャーさんに連絡してお願いしてもらったのが本当です(笑)。

AAAMYYYさん撮影の加藤成順さん

鈴木 でもそのおかげで、いろんなアーティストが関わって作ってくれているとクライアントもすごく喜んでくれました。基本的に、お客さんからの曲への修正は一切なくて、かなりスムーズだったんですよね。ここまでは。

キーは「徹底したイメージ共有×アーティストへの深い理解」

ーそのあと何かあったんですね……(笑)。

鈴木 レコーディングの直前、スタジオに向かう途中でディレクターから「映像に調整を入れたくて尺が長くなってしまった」という連絡がきたんです。つまり、音楽の尺が足りないことがわかって、どんなパートを追加するか決まらないまま録音に臨むことになった。この時は本当に綱渡りでしたね。

現場でAAAMYYYさんに「ごめんなさい、尺が伸びて新しいアイデアが必要になってしまって」と相談しました。

ー現場で新しいアイデアを生む必要があったんですね。

鈴木 話し合った結果「サビを足すのがよさそう」という結論は出たものの、ギターのない状態では曲の新しい部分を作るのは難しく、既存の部分をエンジニアさんに上手くエディットしてもらうことにしました。ただ、問題は歌詞。せっかくここまで素晴らしい出来できているのに、追加したサビの歌詞がただの繰り返しだと不完全燃焼になると思ったので「申し訳ないんですが、今ここで歌詞を考えたいです…」と、更に相談(笑)。

するとAAAMYYYさんは急に静かになり、ものの5分ほどでケータイでメモった歌詞を見せてくれました。その歌詞がめちゃくちゃ良かったんですよ。すぐにこれで録ってみよう!と。柔軟な対応力というか、ちゃんと意味が繋がった歌詞をあの短時間で引き出せるのは本当にすごいなと思いました。

A エディットされた映像を見せてもらって、その感動的な雰囲気を感じ取っていたので、思ったよりもスッと出てきました。

鈴木 歌詞と歌詞の間を追加するのって、前後との辻褄を合わせる必要があるので難しい。収録が長くなる覚悟もしてたんですけど、あっという間に終わりました。

ーその後「HOME」は、シングルとしてリリースもされています。どのタイミングで「この曲をリリースしたい」と思ったのでしょうか。

A そのレコーディングが終わった帰り道です。鈴木さんに「これ、フル尺にしてリリースしたりできないですかね…?」って聞いたら、すぐ確認してくれてOKをいただきました。その後「HOME」はミュージックビデオにもなりました。

AAAMYYY – HOME

ーAAAMYYYさんの普段のCM楽曲の作り方と、今回はどんな点が異なりましたか?

A CMの案件では一番やりやすかったです。最初の打ち合わせで頂いた構成や欲しい音色というのは、楽曲を制作する人が最も欲しい情報です。それが最初からあったのは大きい。たまに「BPMはミドルテンポで」と指示を受けてそのとおりに出すと「このリファレンスくらい下げられますか?」って、マイナス20しないといけないじゃん!みたいなことも…。

鈴木 それはもう、音楽のジャンルが変わってきますよね。

A そういう展開になってしまう案件もありますが、今回はガッシリ枠があって、最初から本質を詰めていくことができました。BPM、構成、長さ、雰囲気、入れたい音色まで指定するのは、音楽を作ってる人じゃないとできないと思います。

鈴木 前職で広告音楽をメインで制作する、いわゆる音プロにいたので、どうすれば作り手がやりやすいかはそこで学びました。

音プロがいる理由は、今AAAMYYYさんが言ってくれたことに集約されます。僕たちのメインの仕事は、クライアントと映像ディレクターがイメージする音楽を分解して噛み砕き、楽曲制作者に分かりやすく伝えること。いわば通訳です。今回みたいに上手くいったと言ってもらえると、存在価値を認めてもらえた気がして嬉しいですね。制作においてここのコミュニケーションは重要視されるのに、僕のような動きをしている人間がいるということ自体、あまり知られていないので。

ー今回のケースは、アーティストの作家性と、クライアントのメッセージの両方を担保できた好例だと思います。何がポイントだったのでしょうか。

鈴木 音楽は人によってもつイメージが異なるため、言語化が難しいものです。だからこそ、目指すゴールを掛け違わないよう、テーマ性や雰囲気、方向性についてクライアントや映像ディレクターと最初から明確にすることが大切です。

今回は、AAAMYYYさんの楽曲のクオリティはもちろん、彼女の作家性と映像のテーマとの相性がよく、SUUMOさんにもその部分で安心してもらえたので、修正や掛け違いもなく進められたのかなと思います。

ー最初が肝心ですね。

鈴木 そうですね。広告業界の中では「映像につける音楽が大切だ」とよく言われるんですが、実際は音楽制作側が企画の根本から関われることはあまり多くありません。今回の例で、音楽も案件の上流の部分に含めて提案したほうが、双方にとって満足のいくものができるという、ある種理想の形が作れたと思います。

目標を明確にして進められるから、そこにアーティストが加わっても作家性が失われずに制作ができる。CM曲がリリースにつながるだけで嬉しいことですが、ここまでのスピード感でスムーズに進んだことも良かった点です。個人的にも、今後の仕事におけるベンチマークになったなと感じています。

もう一つ、これは案件そのものの話ではないんですが、maxillaではミュージックビデオの制作を通してアーティストと知り合う機会が多く、必然的に彼らとの距離感が近くなる。そこで培った関係性やアーティストへの理解度が、こういったお仕事の時に活かされているんじゃないかな、と思います。

ーこういう状況になってきたからこそ「HOME」という言葉が持つ意味に幅が出てきているような気がしています。今改めて振り返ると、どんな曲になりましたか?

A 私史上、一番ひねくれてない、ストレートな曲になりました。家って、人が必ず帰る場所ですよね。このお話をいただいたのは、ちょうどツアーが終わって、家にいるのが長いときで。美味しいご飯を食べたり、お風呂にゆっくり入って、よく眠る。そういうことが大事なんだなと改めて感じていた時期でした。

AAAMYYYさん、ご自宅の作業スペース

ー家で過ごす時間の大切さを再認識していた頃だったんですね。

A それと、maxillaのみなさんの映像のお仕事を見て、チームのバイブスというか、「人間力」がある人たちなんだろうなって思っていました。「家」も、maxillaが持っているであろう「人間力」のどちらも、根本的に “いいこと” なんだなっていう気持ちがあって、「素晴らしい×素晴らしい」は、もう、素晴らしいでしかないんだ!って(笑)。

うまく言葉にできないけど、私の中でそういうリンクがあったんです。人を大事にしようとか、ありがとう、おかえりって言おうと思えたり、誰かに優しくなれること。そんな、ポジティブな気持ちになれるような曲にしたかった。みなさんのおかげでそういう曲になったかなって思いますし、今後の自分の作風にもいい影響がありそうです。私にとってこのお仕事は、自分の中の大切なものに気づくいい機会になりました。

  • Speaker

    AAAMYYY
    Seiya Suzuki

  • Interview & Text

    Kentaro Okumura

  • Edit

    Kohei Yagi
    Mami Sonokawa

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