Helixes log

OPEN

キーワードは「爆発」と「緩急」。『SPACE SHOWER AWARD 2021』モーショングラフィックス制作の舞台裏

2021.12.13

Helixes Inc.のメンバーやそのマインドについて発信していく「Helixes.log」。

今回フォーカスするのは、Helixesのクリエイティブチーム・maxillaがメインビジュアルを担当した「SPACE SHOWER MUSIC AWARDS 2021」。

ディレクションを担当したディレクターの松野に、映像のテーマと3DCGの作り方、そしてプロジェクトをどのように進めたのかを、同じくmaxillaのディレクター・チャールズが聞きました。

チャールズ まずはこのプロジェクトがどのように進行したのか、教えてもらえますか?

松野 最初に、先方からビジュアルにおけるコンセプトが送られてきました。その中で、大きなところで言うと「グリーンとスカイブルー、またはグラデーション」というカラーの指定がありました。前年のテーマが、リッチに3Dグラフィックが光り輝く「ネオ東京」という雰囲気だったので、今回は一転して冷たい色味をメインにし、明るくフラットな軽いビジュアルにしていきたい、という考えがあったようです。そのうえで「新時代、新世界を彷彿させるビジュアルをモーショングラフィックスで表現したい」と。

チャールズ なるほど。これらのグラフィックやレイアウトといったモーション関連は松野さんが一人で作られたのですか?

松野 そうですね。映像だけでなく、キービジュアル制作も要件に含まれていたので、モーションを作る前にキービジュアルから進行しました。「新時代」や「新世界」というテーマがある中、わかりやすいモチーフは使わずに「ロゴが際立つように表現してほしい」という用件もあったため、ベースづくりは難航しました。

チャールズ それは難しそうですね。

松野 要件をまとめていく中で、「新時代」や「新世界」という言葉から想像したのは、宇宙の始まりのようなビッグバン。爆発するようなイメージをモーションの動きや、グラフィックの裏テーマに設定しました。放射状に飛び散り、すばやく着地点にめがけて動き、一枚の絵に落ち着く。一連の動きはこのテーマに基づいています。

松野 納品日まで差し迫っていたので、最初の企画書の段階から、いくつかのロゴ案とともに、ただキービジュアルを提案するのではなく、そのビジュアルが動くとどうなるのか、モーショングラフィックスまで意識できるよう構成しました。この企画書の時点で、グラデーションを使ったパターンや、よりソリッドな雰囲気のもの、アブストラクトな感じのものまで、かなりのパターンを提出しました。

─チャールズ パターン数を出すと方向性が定めやすく、進行にスピード感が出ますよね。とくに時間がないプロジェクトではいいなと思いました。具体的な作り方を聞きたいのですが、キービジュアル自体はAfter Effectsを使って作ったんですか?

松野 すべてAfter Effectsです。最初からフラットデザインで行くと決まっていたし、作業時間や完成が見えやすいところから、After Effectsのプラグイン「Element 3D」を使いました。

チャールズ 僕はElement 3D、まだ使ったことがないんですよ。

松野 Element 3Dは、今回のようにフラットなグラフィックを構成したり、部分的に実写と合成する場合には、単体でも充分なプラグインと感じています。リッチな3Dグラフィックを作るにはさすがに限界はありますが。

─チャールズ 遠近感を付けた表現や色の反転も取り入れていましたが、オブジェクトがどう動くかまでコンテのときに決まっていたのでしょうか? 音楽と合わせて作りながら調整したのでしょうか。

松野 うーん、それは半分半分ですね。途中で作るものの増減もあったので。まず、大まかに展開を作って、そのあとに素材になりそうなモーショングラフィックスを何個も作り、それらを編集して組み立てていく、という感じでした。

チャールズ 音楽はどういう風に作られたんですか?

松野 今回のアワードでは5秒のバージョンから2分ほどのイントロダクションまで、いろいろな尺を用意する必要がありました。なので、それぞれのバージョンにおいて、アタリの映像や資料をベースに、タイムラインでの展開をコンポーザーに秒単位で指定しました。「◯秒から◯秒までは一度平坦になって、そこから一度ブレイク。◯秒辺りでピークを迎え、その後にシーンと静寂になる」といったような感じです。

同時に、音色のリファレンスを共有してアウトラインを提示しました。それをもとに一度作ってもらって、届いたものに対してフィードバックを出す。イメージと違うところがあれば訂正し、逆にコンポーザーのアイデアで良いと思ったものは採用する。そんな感じで、対等な関係で全種類の完成までもっていきました。

チャールズ そうすると、モーションを作り始めたころは曲なしで進めていたんですよね。曲がしっかり当てはまらないと、気持ち悪い仕上がりになるリスクがあると思うのですが。

松野 そうですね。ただ、スケジュールに余裕がないときは、先に完成形を自分の頭の中で整理して、全体のベースとなるものを何となくでも作っておいた方がいいと思っています。音楽が届いたときにモーションを調整して音楽に当てることもできるし、ベースがあればBPMやムード、ビート感など楽曲の発注も建設的なコミュニケーションで進めることができるので。

─チャールズ なるほど。いつも音が先か、映像が先かで迷ってしまうんです。

松野 今回は音楽の仕上がりが早くて、5秒バージョンのオープナーは音の方が先にできていたので、音に当てていく形で制作しました。ただし、約3分近くあるアワードのオープニング映像は掲載内容の確定が遅くなり、尺がなかなか決まらなかったため、BPMの指定と、サンプルのモーションを先に制作したうえでコンポーザーに説明して曲を作ってもらった、という順番になりました。音が先でも絵が先でも、効果的に進める方法をとることで解決できることはあると思います。

チャールズ ということは、ロングバージョンのサビを編集してロゴバージョンにはめ込んでいるわけではなく、また別で作っていたんですね。

松野 そうです。ロゴバージョンはむしろ、あまりビートが入っている楽曲というよりは、アタック的な役割と考えて作っていました。オープナーは、次のコンテンツが始まるアテンションだったりするので、注意を引くという観点でいうと、楽曲的より、SE的である方が正しいと思っています。

─チャールズ 今回は曲をコンポーザーに発注された訳ですが、ロイヤリティフリーの音源を使うこともありますよね。その場合、今のような「モーションを音に合わせる」作業については、どのように考えられていますか?

松野 ストックミュージックを使う場合は映像の尺をきちんと割り出して、それにフィットするように自分で編集した楽曲を作ります。それにモーションを当てていくのが工程としても最短且つ効果的かなと。

─チャールズ 購入音源をエディットして別の音源を作ると。

松野 切り貼りして行く感じですけどね。もちろん、権利的にそれが問題ない場合です。やっぱり、グラフィックを中心にした映像には展開が必要で。映像をどんな構成にしたいか──たとえば、冒頭のテンションは静かに始まって、最後はこういうふうに目立たせたいとか、イメージがありますよね。その流れに合うように編曲するんです。発注する場合でも、既存の物を使うにしても、なるべく自分の頭の中で思い描いた演出の通りになるように調整します。

─チャールズ また映像に関する話に戻りますが、放射線のカラーリングがランダムですよね。ランダム性をソフトで作るのは難しいと思うのですが、このランダム線も、After EffectsのElement 3Dを使って作ったんですか?

松野 グラフィックとして目を引くようなランダム感が出るように色の調整をしました。Element 3Dはランダマイズに長けているので、ベースをつくり、2Dグラフィックの円形とギザギザの線を意識的に配置することで、メリハリをつくっています。

─チャールズ 15秒あたりで、放射線の中にぐっと入っていきますよね。放射線をアップして見せていくような。

松野 これは棒状のオブジェクトで構成されたトンネルを作って、カメラが中に入っていくように動かしています。全体的に、カメラの動きやオブジェクトの微妙なランダマイズなどでバリエーションを出しているのはポイントかもしれません。ベタ塗りの3Dが映像のベースだったので合間で差し込むグラフィックはわざと2Dで作って、緩急をつけたりしています。あとは、テーマが「爆発」なので、化学反応のようなモーションになるといいなと思って作っていましたね。オブジェクトの間をぐんぐん進んでいくと緊迫感があって爆発を予兆させるし、オブジェクト同士がつながって一気に広がる、とかも化学反応っぽい。

─チャールズ たしかにそうですね。松野さんの映像にはいい意味で緊迫感がありますよね。緩急というか。

松野 緩急をつけるという点でいうと、輝度のコントラストを強く出したトランジションはよく入れるかもしれません。あることで、構成がわかりやすくなるんですよね。この「Guest紹介の映像」でも、Guestの名前が出る直前に一瞬黒が入ることで、ここから展開が変わることが“Guest”の文字と相まってわかりやすくなります。ゆっくり見せないと構成を認識できない情報量なのか、一瞬でも認識できるものなのか、要素を把握したうえで使い分けています。

─チャールズ 僕も今まさにモーショングラフィックスを使った映像を制作しているのですが、トランジションで悩むことがあります。たとえば1つの線が伸びてきて、次のカットには3本の線があるとき、残りの2本をどう入れようか、と考えがち。でも松野さんのお話を聞いていると、もしかしたら「3本の線がいきなり入ってくる」みたいなことでもいいんだ、と思いました。

松野 その悩みはめちゃくちゃわかりますよ。ただ編集や、尺の観点、最終的に何を伝えたいのかを考えたときに、モーションで描き切る以外にも、シーンをパッキリ変えてインパクトを作るというのも手段としてはありだなと思います。

─チャールズ 今後の参考にしたいと思います。ありがとうございました。

  • Speaker

    Takahito Matsuno
    Charles Chung

  • Interview & Text

    Kentaro Okumura

  • Edit

    Luna Goto
    Kohei Yagi

この記事に関連する求人情報

Helixesへのお問い合わせはこちら Contact