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SIGNIF×Helixes|いちクリエイターから始まった2社の組織づくりの道のりと、組織におけるコミュニケーションの重要性

2024.05.31

Helixes Inc.のメンバーやそのマインドについて発信していく「Helixes.log」。

CGを用いた映像制作で豊富な実績を持ち、Helixesとも様々な仕事を通じて度々コラボレーションをしているクリエイティブエージェンシー・SIGNIF。盟友同士とも言える同社代表でディレクターの荒牧康治氏とHelixes代表・志村龍之介が、組織課題との向かい方、お互いの共鳴ポイント、ビジネスとクリエイティブのバランスや若手育成、AIなど、ときには経営者として、ときにはプレイヤーとして様々な観点で話し合います。

Vimeoの登場と日本のモーショングラフィックスの隆盛

志村 今って人数はどのくらいになったの?

荒牧 プロデューサー、ディレクター、デザイナーと財務関係のスタッフを含めて15人程度、デザイナーが一番多くて7人在籍してる。会社としての能力と個々の得意な分野を同時に伸ばそうと、メンバーそれぞれが得意なツールや表現技術も育てていこうとしていて。たとえばHoudiniを使える人もいれば、イラストを描ける人もいたり。

志村 採用でもそこを意識してる?

荒牧 うん、映像にしか興味がないよりは、多方面のカルチャーに興味のある人がいいなと思ってる。

─その方針は設立当初からのものですか?

荒牧 そうですね。僕自身がもともと会社に所属した後にフリーランスになったという経緯もあってか、会社を作るなら自分のやりたいことの延長だけじゃなく、それぞれがやりたいことを実現できる会社にしたいと思っていました。好きなものがモーショングラフィックスやCGだけだと、どんどん同質化していってしまう。でもそこに別のカルチャーへの興味があれば、映像の技術と融合させることでより遠くを目指せるんじゃないかな、と。

─改めてなのですが、荒牧さんが映像に携わり、SIGNIFを設立するまでの経緯を教えてください。

荒牧 僕が映像をはじめたのは大学1年生ぐらいの頃でした。大学は文系で、映像関係の大学とかではなく、映像サークルに入ったのがきっかけで、弊社プロデューサーの河﨑はそのサークルの先輩なんです。

志村 そうだったんだ!それは知らなかった。

荒牧 ただサークルといっても、ちょっとしたショートフィルムをみんなでワイワイ作っているような集まりで、演技も演出もクオリティは全然。ここで同じような映像作っててもなぁとなってきた頃、ちょうどVimeoが出てきた。そこから細金卓矢さんのような、日本でのモーショングラフィックスの先駆けとなる人たちが活躍しはじめて……。

志村 2010年前後のあたりだよね。

荒牧 そう。モーショングラフィックスだったら全部自分で作れるし、クオリティも自分次第だから、面白いものができるかもと思って作り始めた、というのが最初。その後、作ったものをVimeoに投稿していたらStaff Picksに選ばれたりして、もしかしたらそのまま仕事にできるかもと思うようになった。

志村 で、そのまま大学卒業後に映像の仕事に就いたという感じ……?

荒牧 そうだね。普通に就活した時期もあったけど、気持ちの面も含めてうまくいかなかった。1回留年して、もう一度映像の道に進もうと、知り合いのツテでFOVという映像制作会社に入社して。モーショングラフィックスデザイナーとしてのキャリアのスタートはそこから。会社にいた頃から、フリーランスとしての仕事も並行してやって、3年ほどして独立したという流れ。

それからしばらくフリーランスとして働いていたんだけど、あるとき星(SIGNIF 取締役)から「一緒に会社どうですか?」って突然電話がかかってきた。

志村 星くんらしい(笑)。

荒牧 当時、アシスタントが2人いたから、フリーランスとして2人を抱えるより、会社にしたほうがアシスタントにとっても幸せかなと、SIGNIFを作った、っていう流れなんだよね。

個々に目標を持ってもらうための、組織のビジョン

─会社を設立後、とくに難しさを感じた点を教えてください。

荒牧 最初に難しいと思ったのは、全員が全員、仕事に対して明確な目標を持てるわけではないということです。僕は目標や、やりたいことを実現するために映像を続けているので、その感覚がわからなかった。みんながやりたいことをやるための支援ができる会社がいいと思っていたんですけど、そもそも何をやりたいかで立ち止まっちゃう人が結構いたんです。

─そうした自己分析をする習慣や機会が少ないのかもしれません。

荒牧 最近、ウェブサイトをリニューアルして会社のビジョンを一般公開したんですが、その理由は会社としての大きな方向性を示して、そこにそれぞれが肉付けしていく形のほうがやりたいことを見つけやすいだろうと思ったからです。あとは日々の会話や制作物などに現れる本人の方向性を経営陣で分析して、それに合うようなプロジェクトにアサインすることで、徐々に自分の進みたい道を見つけていってもらえるようにする、とか。そういう機会を経営側がしっかりと用意したり、導いていかないといけないという点は悩みましたね。

志村 モチベーションがどこでどう上がるかは人によっても、役職によっても違います。営利組織である企業が何を実現しようとしていて、その企業を構成する人が何を担うべきなのかと、個々のモチベーションが合致しないことは往々にしてある。でも、結局は個の強みを生かすマネジメントをして、組織の利益に最大限繋げていくしかないわけで。となると、やっぱりその根本にあるのはコミュニケーションなのかなと思っています。コミュニケーションを取って、各々がやりたい役割と会社として求めたいことを一つずつ話していくことが大事だなと……これは前よりも痛感しているところです。

荒牧 よくわかるなぁ……。それと、もうひとつ難しいと感じたのが人間関係で。どこの組織も、最終的な課題ってそこにいきつくと思うんだけど。コミュニケーションを1対1で取っていても、うまくいかないこともたくさんあるよね。問題が起きたときには当事者はもちろん、周辺の人にも意見をもらったうえで、経営陣でできるだけベターな解決策を考えて、実行する。今のところ、それしか人間関係への対応策はないのかなって。

志村 結局、個別具体に対して粘り強く丁寧に向き合うしかないよね。

普段は言えない思いや考えを伝え合う場をつくる

─先程出たメンバーのやりたいことについて話す機会はどのように作っていますか?

荒牧 これまでは年3回ほど、賞与のタイミングで面談をしていたんですけど、それに加えて去年は箱根で合宿をしました。そこでは会社に対してどういうイメージを持っているか、改善してほしいところ、いいと思うところなどの意見を出してもらって、みんなで話し合う機会を作りました。

志村 めちゃくちゃいいね。

荒牧 普段の仕事の延長だと言えないこともあるから、場所を変えてオープンな環境で率直なことを言えるようにしたくて。想像以上にいろんな意見が出たのは収穫で、すぐ対応できるものは対応して、時間がかかるものに対しては経営陣の中でどう変えていくかを話し合ってる。

─制作会社は制作に追われ組織づくりを後回しにしがちだと思います。荒牧さんのなかで、組織づくりを課題と認識し始めたのは、いつ頃のことですか?

荒牧 一番実感したのはコロナ禍のタイミングです。リモートワークとのバランスをどう取るかを考えていくなかで、組織として仕事をしていくってどういうことなのかを根本から考えるタイミングでもありました。その頃から、組織とはなにか、みんなにとって何がいいことなのかといった根本を自問自答したり、経営陣で話し合うようになっていきました。Helixesはコロナ禍の頃どんな話をしてた?

志村 まったく同じようなことを考えてたし、話し合ってた。自分たちの強みは何なのか。中長期的に、外部環境と内部環境を照らし合わせて何をやっていくべきなのかをすごく考えて……といっても、どう考えて始めればいいかもわからなかったから、経営大学院に通信で入ってみたりして、全社的戦略と個別の事業戦略を練っていった、という感じ。Helixesがあって、maxillaがあって、他にはどういう事業を持つべきなのか。その頃から、戦略とかを考える素地がようやくできはじめた感覚かなと。

表現技術と日本のカルチャーを融合する

─HelixesとSIGNIFは多くのプロジェクトで協働していますが、両社の共通点やシンパシーを感じる部分はどこにあるのでしょうか。

荒牧 SIGNIFもHelixesも、それぞれ色は違いますが、日本のカルチャーに寄り添ったクリエイティブをしている点は近いと思っています。あとはディレクターによって色が違うというか、それぞれの個性、テイストが違う点も似ています。トータルとしてのHelixesのカラーがあって、ミクロでみていくとまたそれぞれの個性がある。

志村 まず荒牧くんに対しては、同じ釜の飯を食ってきた仲間という感覚があります。Vimeoをはじめとする映像カルチャーの影響を受けていて、活動している領域も近い。それに創業者っていう親近感もあります。SIGNIFに対しては、広告文脈でCGや映像制作を行うという枠にとどまらず、自分たちの色、好きなことを大事にして、よりよいアウトプットを生み出していこうとする姿勢がすごく好きですし、共感できます。それって、商売としてはすごい難しいバランスだったりするので、そこに果敢にトライしている姿勢が好きですね。

荒牧 ありがとう。バランスという意味では本当に難しいんだけど、SIGNIFの場合は組織構造でバランスを取っているところもあって、自分はプレイヤー側で、プロデューサーとして取締役の2人がいて、合議制でいろいろ決めてる。プレイヤーとして挑戦もするけど、会社として必要なこともやっていく──これをバランスよく組織としてやれている感覚はあるかな。

志村 そういうところが好きなポイント。

荒牧 でも、僕や他の誰かが経営のプロだったら合議制にしてないかも。経営がわからないながらも、実地でいろいろ経験してるから、一人が出した答えが正解だとは限らないのもわかっていて。知恵をちゃんと集めてベストを探っていくことで、一番いい選択肢を選べるはずだと思ってる。

─この合議、折り合いの付け方にはまだまだ話せる内容があると思います。経営陣でも意見がなかなか合わない時もあるでしょうし。

荒牧 毎回といっていいぐらい、意見は合わないです。ただ意見が合わなくても、最終的には会社の方向性を決めないといけないので、どこでそれぞれが折れるかのポイントを作っていくしかないですね。

志村 折衷を上手く取れるよう、Helixesでは建設的な議論のためのコミュニケーションポリシーを設定しています。毎朝1時間、経営陣でデイリーの対応を話す時間を取っているのと、水曜日も重要な決定事項を話す定例を1時間30分取っていて、その時間の中で積み重ねの議論をしようとみんなで意識して話していますね。

知見の蓄積と継承が組織の利点

─現状、組織における課題で優先度の高いものはなんですか?

荒牧 一つは課題でもありいいことでもあるんですけど、経営基盤が安定してきた中で、次にどんな挑戦をしようか話し合っているところです。もう一つが、若手の育成。メンター制を導入したり、いろいろ試行錯誤しています。

志村 Helixesもすごく近いです。組織づくりの根本はコミュニケーションと教育だと思っていて。みんなの能力をどう活かして、組織として力を最大化するか。そのためのコミュニケーション方法と仕組みを考えています。

荒牧 SIGNIFは今デザイナーが増えているので、育成は少しずつ体系化していこうとしています。ただ、作る側からすると感覚的な部分とか、共通言語を知らないといけない部分もあって、そこはまだ手を付けられていない状態です。全てを体系化しようとするのは教科書を作るのに近い労力がかかるので、経験値のあるメンバーと共同で最低限の知識だけでも身に付けられるような基盤を作っていきたいですね。

─最後に、この先のビジョンを教えてください。

荒牧 もう少し内製化していきたいと考えています。それが、個人ではなくて組織であることの意味にも繋がっていくかなと。外部の人への依存度が高いと、組織の中にノウハウが蓄積されませんし、組織である意味も薄れてしまう。もちろんすべてを内部でやるのはコストを含め難しいので外部のパートナーとも継続的な関係を持っていきたいと思ってますが。内製化を進めて、それぞれの培ったノウハウを次の世代に継承できるように整えていきたいです。そのためにシステムで解決できる部分は今構築している最中で、メンター制を含めた意識の部分も浸透させていこうと試行錯誤中です。

もう一つは、数年のうちに、海外市場の仕事も増やしていきたいと思ってます。今でもモーショングラフィックスやCGの本流は欧米圏にあって、一方で日本のモーショングラフィックスはドメスティックな発展をしている。長期的なことを考えると本流でも勝負できるようになっていないとまずいなという危機感が最近強くなっています。ただ、単純に本流と同化したものを作っていっても劣化コピーにしかならないので、本流の技術と、SIGNIFが日本のカルチャーと融合させることで培ってきた表現を組み合わせ、さらに独自性を持って挑戦していきたいと考えています。

志村 HelixesはコンテンツIPに特化した事業創出会社として、①maxillaをより強くすること ②新たな軸を生み出すこと、この2点に注力します。逆に難しいことなく、この二つ以外のことはしません。

そして①と②を実現するチーム作りが最も重要なことだと思っていて、チーム全体としての会話の量や質、それを支える仕組み、一人一人の強みを生かして個人・ひいては組織全体が前進していける空気を作るという事を含めて、みんなで楽しみながら仕事をしたいと思っています。

AIの進化とクリエイター

志村 最後に、AIについてどう捉えてるか聞いてもいい?

荒牧 大事なテーマだよね。個人的には、完全に(ものづくりの機能に)置き換わるのはまだ先だと思う。便利ツールとして活用しながら、キャッチアップは続けていこうかなと。

志村 各社AIに対する考え方ってバラバラだから、単純に気になったんだよね。生成AI一つとっても取り組み方が違うし。

荒牧 今のAIの技術で言えば、既にあるものを大量にインプットし、そこから導く形でアウトプットするのが基本。​​AIで作れるものとSNSでバズるものって近いと思っていて、いいねって、未知のものというよりはわかりやすくて短期的に消費できるものに集まる。だからそういうクリエイティブをやっていると、AIに食われていくと思います。逆に言えば、だからこそ独自性が重要になってくる。SIGNIFのビジョンとしても、長く残る、レガシーを作っていくと掲げています。こういうマインドを若手の子たちにもしっかり持ってもらえるように、試行錯誤していきたいですね。

  • Speaker

    Koji Aramaki
    Ryunosuke Shimura

  • Interview & Text

    Kentaro Okumura

  • Edit

    Kohei Yagi
    Hanako Yamaura

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