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遊戯王のVHS、ミュージックビデオ、パリ―。対象を分解して映像の軸を組み立てるディレクション方法のルーツ|渡邊 勝城(maxilla)

2021.10.22

Helixes Inc.のメンバーやそのマインドについて発信していく「Helixes.log」。

今回はフランスのパリで生まれ育ったディレクター渡邊勝城に、自身のルーツやこだわりの作品について語ってもらいました。
漫画を模写することが大好きだったパリの少年が、なぜHelixesへ入りディレクターとして活躍するようになったのか? 異色の経歴を武器に、独自の世界観を築く渡邊のクリエイティブ観と共にひもときます。

クリエイティブの楽しさに気づいたパリでの卒業制作

―フランスのパリで生まれ育った渡邊さんですが、映像やデザインに興味を持つきっかけはなんだったのですか?

もともとは絵を描くのが好きで、小さい頃から漫画の絵を模写して遊んでいました。それが、今の仕事に繋がる原点ですね。美術が好きだったし、得意だったので、高校卒業後もパリの美術学校に通うことになります。

その美術学校では、グラフィックデザインと広告のクリエイティブディレクションを合わせて勉強する学科に入りました。音楽も好きで、アルバムのジャケットデザインなどにすごく興味があったので、その学科を選びました。

―具体的にどのようなことを学んだのですか?

デッサンなどの美術の基礎も学びましたし、企業の商品広告を作る、という実践的な授業もありました。ただ、自分自身はそこまで成績はよくなくて、ほとんどの課題が後ろから数えた方が早かったかもしれません。授業そのものは面白かったのですが、作るコツを掴んだのは、経験を積んだ卒業制作のあたりだったかな。これがその作品です。

―音楽フェスのポスターですか?

そうです。「Rock en Seine」という、セーヌ川の真ん中で毎年開催される音楽フェスがあるのですが、そのビジュアルをデザインするというテーマでした。この卒業制作を通して、こんなに楽しくできて、高い評価も得られるなんて、クリエイティブって面白いんだなって改めて思いました。そこからモチベーションが上がって、今度は環境を変えて、日本で映像の勉強しようと決めました。

―ビジュアルデザインではなく、映像を勉強しようと思ったのはなぜですか?

僕の中でデザインと映像は、ビジュアルコミュニケーション、つまり視覚的な表現という意味で近しいものという考えがあるんです。学生のときも、自分がデザインしたものを動かしてモーショングラフィックスを作っていました。音楽との関わりで言えば、アルバムアートワークだけでなく、ミュージックビデオもずっと見てきたことも大きいです。自分の中では映像は視覚表現の重要な手法の1つで、デザインは3年間勉強したから次は映像がやりたいな、という流れでしたね。

―環境も日本にしたいということがあったのですね。なぜ、フランスではなく日本を選んだのですか?

フランスに19年間いて、違うところで勉強をしたかったのが理由の1つです。2年に1回くらい日本には行っていて、楽しいところですし、好きな国だったのもあります。

あとは、自分なりの強みを見つけるために、親のルーツでもある日本のアートの文脈を取り入れるのはいいのではないかと考えたのも大きいですね。フランスにいる僕からすると、日本のアート文脈は新鮮で興味深く感じられたんです。そういったいろいろな理由が重なって日本で学ぶことを決め、武蔵野美術大学に入学しました。その後、フランスにいるときから作品を見て好きだったmaxillaに入ることになります。

原点を築いた日本の祖父からのVHS

―現在はディレクターとして活躍していますが、そうした役割を意識し始めたのはmaxillaに入ってからになるのでしょうか。

そうですね、この仕事を始めてからです。ただ、純粋にディレクターだけを担っているかというと、そういう感覚でもなくて。自分で手を動かしてデザインもしますし、最近はアートディレクションを担当せていただく機会も増えました。maxillaに所属する他のディレクターにも共通しているのかなと思いますが「ディレクターだけれども、ディレクターではない」という感覚があります。

―これまでに影響を受けた人や作品を教えてください。

絵を描くという意味で、一番の原点は遊戯王です。小学校くらいのときに漫画をずっと模写していました。そういった意味も込めて、自分の原点は遊戯王ですね。

―パリでも遊戯王は見られたのですか?

日本に住んでいるおじいちゃんが当時、遊戯王やドラえもん、金曜ロードショーなどをまとめて録画したVHSを2、3カ月に1回送ってくれたんです。当時は今みたいに流通システムも整ってないので、送るのも大変だったと思いますが、儀式のように律儀に送ってくれました。

―いい話ですね。その他には?

ICINORIというデザインチームの作品も影響を受けています。卒業制作で作った「Rock en Seine」のビジュアルを過去に担当していた人たちです。イラストのクオリティが高く、色使いやタッチなどが好きですね。

それから、フランスのミュージシャン、Gesafelsteinも大好きです。「PURSUIT」という曲のミュージックビデオが特に好きで、ちょうどmaxillaに入るぐらいのタイミングでよく見ていましたね。いろいろなカットがどんどん切り替わっていく映像なのですが、どういう構成を意図しているのか、なぜこのアイテムをここに置いているのか、などと考えながら見るとすごく面白いですし、勉強になります。僕が得意とする、平面的構成の映像作品にすごくリンクしてくるミュージックビデオです。

―漫画にデザイン、映像や音楽など幅広い分野や作品から影響を受けているのが分かります。

そうですね。アート文脈で言えば、バンクシーにも影響を受けています。パリの美術学校時代に知ったのですが、社会的問題を皮肉も込めてアートとして見せていく方法が素晴らしいですよね。どうしてもみんなが直接的な表現を求めている中で、メタファーなどの技法をうまく使って見せている代表的な存在ではないでしょうか。

フィックスであれば完成度の高い一枚絵を映像で表現できる

―では、続いて渡邊さんの代表的な作品を選んでいただきました。1つめはなんでしょう?

SIRUP の「Online」です。このビュージックビデオは、ほぼフィックスで三脚のみで撮影しています。1枚で絵を作っていったり、構図を決めていく手法がやっぱり好きなんだな、とこの作品制作を通じて再認識しました。もちろん動きのあるカメラの絵も好きなんですけど、今回は曲を聞いたときに自然とフィックスだなと決めたんです。

SIRUP – Online feat. ROMderful 

フィックスの場合はカメラの動きがない分、映像だけど一枚のグラフィックのような扱いになります。フレームの中で構図を考え、人物や周囲のアイテムの動かし方で一枚の絵を構成する感覚です。そうしたフィックスの特性をうまく活かした作品だと思っています。

―動きのあるカメラワークよりも、フィックスの方が1枚絵としては強さが出るということですか?

映像を人に説明をするときによくスクリーンショットを撮りますよね。それが動きのある映像だと、人物の動きがカメラに収まる適切なタイミングを合わせることが難しいんです。写真にしてしまうとどうしても絵的な魅力も落ちてしまう。その点、フィックスで撮影した映像の方は、スクリーンショットで撮っても魅力は損なわれません。こうして比較してみると、フィックスは「1枚の絵」として完結させやすいという特性があると思っています。

あと、映像で使用するデザインとアニメーションは基本的に僕ひとりで作りました。もともとのルーツであり、強みであるデザインを生かす意味で、フィックスの映像で平面の中で動きと力のある一枚を作り上げれるのかなと思います。

─次に挙げたのが、She Her Her Hersの「Silver Rain」のミュージックビデオ。これはどういった作品ですか?

さきほどの「Online」とは違い、この作品は動きのあるカメラがほとんどです。フィックスもたまに入っていますが、基本的にワンシチュエーションで撮影しています。

このMVではアーティストサイドから、スケーターの方を起用したいというご要望がありました。条件が限られていた中で思案するうち、歌詞に出てくる「君」というワードを象徴する大きな風船を置こうと思いついたんです。そういった象徴的なアイテムが僕は好きで、「君」という命を感じられるものとして使うことを決めました。

そのタイミングで、Helixesのプロデューサー経由で鎌田詩温さんという明治大学のスケートコーチに依頼をして、演技を考えていただくことになって。詩温さんのおかげもあって、風船がまるで命を持ってスケーターと会話しているかのような映像が撮れましたね。「君」とスケーターの2人の切ない関係性をうまく表現できたと思っています。

She Her Her Hers – Silver Rain

―そして3つめが、WONKの「FLOWERS」のミュージックビデオですね。

これまでで一番、みんなと作ったミュージックビデオになったと思います。もともとはある海外のフォトグラファーが、ひとつのマンションに住む人たちの部屋を撮った作品があって。同じマンションだけど、部屋を見ればその人の個性や特色が見える、というものなのですが、この作品にインスパイアされて「ヴォーカルの長塚さんがいろんな部屋に遊びに行く」というアイデアが生まれました。

バンドからもハッピーで前向きな映像にしたいという話があったので、この企画を見せたところとても良い反応があって。長塚さんがそれぞれの部屋でちょっと良いことを仕掛けるのもいいね、という意見はWONKのみなさんからいただいた案です。

WONK – FLOWERS

―部屋のセットや小道具など、絵作りにもこだわりが見られますね。

プロップスタイリストの金子恵美さんがめちゃくちゃがんばってくれました。すべての部屋をゼロから作り込んでいるんですよ。部屋の美術を相談しているときに、「FLOWERS」ということで、各部屋にお花を入れたらいいんじゃないか、という話が出て。すべてがリアルの花ではなくて、ポスターの中に花が描かれていることもあったり、パーティーのシーンでは花の色をアルバムのトーンに合わせていたりと、細かいギミックが仕込まれています。

―主人公の姿は、周りから見えていない設定ですか?

『トゥルーマン・ショー』じゃないけど、周囲のみんなは長塚さんが見えていないような振る舞いをしますが、本当は見えているという設定です。長塚さんは「自分の姿は周囲から見えていない」と思っているのですが、それでも周囲への優しい気配りをする。そんな彼が、最後のエレベーターのシーンでおばあちゃんから花束を渡されたことで、見えていたのだと気づき、屋上でのライブに参加する、という流れになっています。

あとこれは僕の自己満足なんですけど、バンドを練習しているシーンの部屋には、ルーフトップライブを告知するポスターが貼ってあるんですよ。エレベーターにも。何度も見返せるようなものにしたい、というリクエストもあったので、なるべくたくさんの小ネタを散りばめたつもりです。

美術学校で学んだ「軸」を持つことの意味

―これらの作品で共通しているポリシーがあれば教えてください。

僕はどの作品においても、上のレイヤーから考えを分解して作り始めることを心掛けています。例えばミュージックビデオの場合、アーティストが持っているアイデアや曲を分解して、どの表現だったら面白いかをまずは考える。

そうした軸が明確にあることで、作っているときでも軸がぶれません。それに、「何でこうしたいの?」とアーティストに聞かれたときに、「あなたの曲の素晴らしいところはここだから、自分はこう表現したいんです」と説明できる。こうした方法が身についているのも、広告やグラフィックの勉強で得たワークフローのおかげなのかと思います。

―では最後に、Helixesに所属することで、どんな側面が自身のプラスに働いていると思いますか?

Helixesにはクリエイティブ面でも、仕事内容やプライベートの趣味などにおいて多種多彩な人がいるので、刺激やインプットの種類も増えてきています。他のディレクターのアイデアや演出を見て学べる部分も大きいでね。そうした学びは、YouTubeで映像を見るだけと比較しても、解像度が断然に違うはずです。

そして1つの会社、チームとしてみんながお互いにサポートして仕事をしているのも強みです。プロジェクトの最中に、「これは1人だったらできないな」と思うことがよくあります。いいチームと共に仕事ができ、よきライバルから刺激を受けられるのが、僕がHelixesにいるメリットですね。

Direction Works

https://masakiwatanabe.com/

  • Speaker

    Masaki Watanabe

  • Interview & Text

    Kentaro Okumura

  • Edit

    Mami Sonokawa
    Kohei Yagi

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