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すべてはアイデアのために。ディレクターに必要な”孤独に向き合う覚悟” |阿保哲郎(maxilla)

2021.08.20

Helixes Inc.のメンバーやそのマインドについて発信していく「Helixes.log」。

今回は、Helixesのクリエイティブチーム・maxillaに所属するディレクターの阿保に、作り手としての価値観や仕事のポリシーを聞きました。
かつて嫌悪感すら抱いていたエゴイスティックなディレクター像こそが、自分には必要だと気付く過程や、“孤独”との向き合い方から阿保のものづくりへの姿勢が浮かび上がってきました。

ディレクターには時として「これが良い」を貫くエゴが必要

―ディレクターになる意識はどのように芽生えたのでしょうか?

阿保 学生時代からなんとなく映像を作ってみたいとか、格好いいものを作りたいという思いは持っていました。その流れで、専門学校に行ったり、映像関係のアルバイトをしたりするなかで、「ディレクター」という職業を知ったんです。ディレクターと言われる人がイニシアチブを取って動いていくんだなっていうのを肌で感じていましたし、いつか自分もなりたいと思うようになりました。

最初は、身近にディレクターという存在を見てきたので、あの人と同じようにやればいいんだろうな、くらいに考えていました。でもいざディレクターになってみると、非常に孤独な職業だなって思うようになったんです。

というよりもむしろ、孤独でなければいけない仕事ですね。誰かと一緒に作ることもあるし、職能や立ち位置に関係なくアイデア出しをすることもあると思うんですけど、結局最後に決断を迫られるのはディレクターじゃないですか。だから、みんなの思いとかストレスとか、いろんなものを最終的には背負わないといけない人だなって、最近はよく思いますね。

分野は違いますけど、野球監督だった星野仙一さんも「孤独を愛さないといけない」みたいなことは言ってるんです。いろんなネガティブなものともお友達にならないといけない、と。ディレクターはみんなの思いを汲み取って、ときにネガティブなものも引き受ける。でもそのままでいるのではなく、ネガティブじゃない「何か」に、自分の中で変換するしかないんだなって考えています。

―意見が違っても、ディレクターは強い意志を持って断言する力が要るということでもありますよね。

それは自分の課題だとも思っています。人の意見を聞き過ぎちゃうのかなってちょっと思っていて。もともと「ディレクターは俺だ」みたいなスタンスをずっと嫌ってた節はあるんです。

―なんでですか?

エゴ丸出しで「俺が俺が」タイプのディレクターを、自分がスタッフ側だった頃は嫌だなって思っていて、ずっと反面教師にしてたんです。ただ、いざディレクターになってみると、そのスタンスってめちゃくちゃ大事なんだなって感じるようになりました。エゴ丸出しで嫌われてもいいから、孤独でいた方が自分の作りたいものを作れるのかもしれない、と考えています。

そもそも、100人いて100人が納得する作品を作るのはめちゃくちゃ大変じゃないですか。というか、それは不可能ですよね。だから、誰が何を言おうが「これが良いんだ」って言えること。それが僕が思うディレクターの姿です。自信を持って「これだ」って言えるようになるためには、孤独じゃないといけないんだろうなと思います。

……でも、これってめちゃくちゃ難しいです。以前は芯というか、良いって思ったものに対して自分の中で自信を持てていなかったんでしょうね。自分では良いと思って企画を作っているはずなんだけど、他の人の意見を聞いて「そういう意見もあるよな」って受け入れちゃうんです。ほんとはそこで冷静になって、一度自分が良いって思って作ったものと向き合わなきゃいけない。向き合った上で、自分の考えよりも他の人の意見が良いものだったら受け入れればいいとは思います。ただ1回冷静になって、自分の良いと思ったものをちゃんと可愛がっても良いんじゃないかって最近は考えています。

学生時代に出会ったmaxillaの衝撃

―影響を受けている作品や人物はいますか?

今になって話すのは少し照れるんですけど、maxillaのことはずっと憧れてきた過去もあり、かなり影響されています。あとは昔通っていた、CG制作の専門学校の先生ですかね。その先生はCGや実写もできて幅広く作る人で、いろんなことを教えてもらったんです。映像の歴史や業界についてとか、こういう作家がいるとか。あの先生がいなかったら、実写にもそこまで興味がなかったのかなと思います。

―専門学校では実写ではなくCGを学ぼうとしていたんですね。

そうなんですけど、いざ入学して勉強するぞってなった時に、「あ、これは違うかも」って一瞬思ってしまったんですよ。その学校はどちらかというとゲームのCGで作ったりするところで、自分の興味とは少し違った。でももう入ってしまったし、親に入学金を払ってもらったのに、これはヤバイぞって(笑)。それで違うこともやってみようと、映像の制作会社でアルバイトを始めたんです。その会社ではカメラの回し方とか、コードの巻き方、テープの取り込み、編集の仕方までさまざまな基礎を教わりました。

ちょうどその頃、一眼レフで誰でも動画が撮れる!みたいな時代が徐々に到来しつつあって、Canon 5D Mark2という動画が撮れるカメラを、お金がなかったのでカメラ好きの父に頼み込んで買ってもらいました(笑)。当時はMagic Lanternというオープンソースのファームウェアが、一部のCanonユーザーの中で流行り始めていて、それをカメラにインストールすると本来撮影できない形式のRAWで動画撮影できるようになったり、動画撮影で役立つ本来存在しない機能が開放されたりするんです。それらを一眼レフを持っているクラスメイトに布教して、集まって自主制作してみたり、撮って遊んでたりしました。maxillaのミュージックビデオを知ったのもその頃。調べてみるとおそらく一眼レフで撮影してて、しかも数人のチームで撮ってるってのがわかったんです。

Magic Lanternを入れた一眼レフを友人同士持ち寄って撮影

あぁ、こういう人達がいるんだって衝撃を受けました。動画が撮りやすいものになってきていたとはいえ、ミュージックビデオは大きな制作会社が作るものだと勝手に思っていたんですが、maxillaは個人または少数精鋭のチームで自ら撮影し、作品を作る先駆け的存在としてシーンに出てきたんです。そこにぐっときて、めちゃくちゃ追いかけてましたね。今ほどアーティスト単位で当たり前にMVがYouTubeで公開される時代ではなかったのですが、maxillaが手掛けたMVはYouTubeで見れて、最後にロゴが入ってるので見つけやすかったです 笑。あとチャンネルもありましたね。本当に擦り切れるほど何回も見ていました。そうしていく中で漠然とMV作ってみたいなと思うようになっていきましたね。

そのようなバックグラウンドもあって、maxillaにはディレクター自ら撮影できる人が多数所属していて、撮影の観点における意見交換が活発に行われています。現場でもフットワークはすごく軽いですし、メインのカメラとは別にサブで撮影をお願いできたり、カメラで入っているときでもディレクター目線で考えて担当ディレクターの欲しい絵を撮ってくれたりなど、手前味噌ですが撮影時の「最強感」はずば抜けて高いと思っています。

納得のいく話をベースに映像を構築していく

―現時点で自身を代表する作品を教えてください。

最近、ロックバンド・BBHFの「黒い翼の間を」というミュージックビデオを作りました。物語やストーリーラインをじっくり考えて作った作品です。僕は企画を考える時に、文字から考えるタイプで。文字を考えながら、画が浮かぶ。このビジュアルいいよねとかじゃなくて、あくまで物語を大事にしたいんです。物語として良いと思えないと、映像の企画が進みません。

「黒い翼の間を」では、これまでよりも深く物語を考えました。アーティストからも物語として作りたいと言われていたこともあったので、なおさらちゃんと作り込まなきゃいけなかった。あまり今までにない作り方で、新しい自分を知れたかなって思っています。

BBHF – 黒い翼の間を

―どんな物語にしたのですか?

あるカメラマンを中心とした話になっています。彼には撮りたい写真があるんですけど、生きていくための商業的な撮影の仕事に忙殺されてやる気を失っていきます。楽しくなくなってきちゃって、もう辞めるか、というモードにまで追い詰められていく。

ところが、ある時一緒に仕事をしているパートナーにカメラを渡されて、「私を撮って」というようなことを言われるんです。「もう1回やってみたら?」って背中を押す感じですね。そういう筋書きの話をもとに、ミュージックビデオにしていきました。

―物語がベースにあって、映像にしていくんですね。

そうですね。だから、自分で納得できる話であることが重要だなって思います。物語の意図が観る人に伝わるかどうかはテクニックに依る部分もありますが、それは作っていくうちに段々と身につくもの。テクニックを使う前に、自分の中で思い描いた話に納得しているかどうかを大事にしていきたいですね。

―仕事をする上での信条やポリシーはありますか?

ポリシーというと少し大げさかもしれませんが、最初の話にもあったとおり、自分が良いって思えたものを、もっと大事に可愛がって育てていくことですかね。Helixesのディレクターを見ていても、まずは自分がやりたいこと、伝えたいことがないと始まらないよなって思わされる。周りが何を言おうが最終的に決めるのはディレクターだし、良い企画だと思えたからこそ走り出す仕事ですから。時間や予算との兼ね合いもありますが、まずは自分が良いと思った考えを、頭の中で育てることを大事にしています。

―Helixesに所属する強みは?

Helixesの強みは社内の誰と組んでもチーム感を出せることです。個々人が幅広い知識を持ってて、それが合わさって1つのチームとして存在しているのがすごく良い。

お互いが、お互いの持ってないものを持っている、という感覚もあります。お互いがお互いに影響し合っている。もしかしたら自分の知識だったり、経験だったりで誰かに影響を与えているのかもしれないという感覚もあるんです。この業界で、そういうチームとしての強さを持っている会社はなかなかないと思います。Helixesはチームとしても最強だなって、僕は思っていますね。

Direction Works 一覧

a crowd of rebellion – Alone//Dite
BBHF – 黒い翼の間を
NEE – アウトバーン
Flow Machines feat. Qiezi Mabo – Midnight Calling
Qiezi Mabo meets Flow Machines
  • Speaker

    Tetsuro Abo

  • Interview & Text

    Kentaro Okumura

  • Edit

    Mami Sonokawa
    Kohei Yagi

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